エライこっちゃ
ザリーフは、メガネを拾い上げてかけ直し、わたしとアンジェラの方に向き直ると、
「いや~、こら、ほんまに、エライこっちゃでぇ」
「やっぱり(笑)…… いえ、その、『エライ』と言いますと、何がどのように?」
「そら~、あんた……、ごっついエライでぇ~」
と、いつものような前置きに続き、
「トードウォリアーの領域とゴールデンフロッグ、思てた以上やでぇ~」
ザリーフによると、トードウォリアーの領域やゴールデンフロッグの言葉を出した途端、太守ズォヤードの顔色が変わり、「そんな危ないことは止めておけ」と、引き止められたらしい。この辺りでは、ゴールデンフロッグは一種のタブーであり、トードウォリアーの領域へは近づいてはならないことになっているとのこと。アダブの町では、トカゲ王国の国王から、「あそこは相当にヤバイらしいから、止めた方がいい」と言われたけど、一体、何がそんなに危険なのだろうか。その点について、ザリーフ曰く、
「いやぁ、ほんまは何をゆうてんのか、よう分からなんだけど、感じからしたらやな、やっぱりヤバそうや……っちゅうこっちゃ」
ザリーフが理解したところの、太守ズォヤードの話によれば、大昔から、トードウォリアーの領域に足を踏み入れて無事だった者はいないとのこと。うっかりと侵入すると、ゴールデンフロッグの怒りに触れ、とてつもなく恐ろしいものに食べられてしまうという。この辺りの話は、100年以上前のトカゲ王国で大ヒットしたという「カエルの国旅行記」の内容と一致する。ということは、問題は、その「とてつもなく恐ろしいもの」の正体だけど……
「分からんわぁ~。とにかく、とてつもなく恐ろしいものがいることは、間違いないらしいんやけどな」
分からないなら仕方がない。でも、その正体って……、もしかしたら、ものすごく巨大な金色のカエルが、トードウォリアーの領域に近づく者をひと飲みに飲み込んでしまう、みたいな、ベタな話ではなかろうか。
そのうちに、宴会は、(隻眼の黒龍の周囲を中心として)ますます狂気の度を増していった。「真の『アルコール大王』統一王座スーパーヘビー級」に続き、「究極の『アルコール戦士』統一選手権」、「史上最大級フルパワーバトルロイヤル」など、ネーミングからして意味不明なものばかり。時折、リザードマンが、隻眼の黒龍の強力な物理攻撃により、遠くにはじき飛ばされている。
やがて、ナスル殿下が、真っ赤な顔でフラフラになって現れ、
「⊿∴◆¶¶☆≡∮○£!!!」
と、なんだか非常に機嫌よさそうな様子。ザリーフの翻訳によれば、隻眼の黒龍と異種目七番勝負を行ったところ、3勝3敗1引き分けで、全体としてはドローだったらしい。つまり、リザードマンとしては自分が最強だということが証明されたので、気分をよくしているということ。
ナスル殿下はわたしの隣に腰を下ろし、「⊿‡仝〃※……」と、話しかけてきた。これは、もしや、酔っ払いの世話をしなければならなくなるかも……




