安直な展開
リザードマンたちは、総勢30名程度。武器を構え、車を取り囲んでいる。しかし、警戒しているのか、直ちに攻撃に移ろうとする気配はない。彼らがいつからわたしたちに気付いていたのか、また、狙いは何かなど、詳しい事情は分からないが、ともあれ、待ち伏せしていたことに違いはないと思う。
「★`@△∀☆≡※!!!」
ザリーフは御者台から、半ば悲鳴を上げるような調子で何かを訴えているが、意味不明。言葉が違うというのは、なんとも、もどかしいものだ。武装したリザードマンたちも、口々に言葉を返し、応酬している。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「ねえ、あなたには分かるわよね。リザードマンたちが、何を言ってるか」
「うん、分かるよ。なんというか、こういった場合のやりとりとしては、普通かな」
プチドラの解説によると、つまり、早い話が、(ハッドゥの町のリザードマンから見て)怪しいヤツらが町に近づいてきたので、街中に引き込んで完全に包囲し、「おまえたちは何者だ。この町に、一体、なんの用だ」みたいなことになっているらしい。ザリーフが「我々はけっして怪しい者ではない」と力説しても、「こんな辺鄙なところに、帝国の人間を2人も車に乗せて来るなんて有り得ない。おまえも帝国のスパイだろう」と、なかなか信用してもらえないとのこと。この辺りのリザードマンは、帝国に対する警戒心が強いのだろうか。
「お姉様、どうしましょう……」
アンジェラはわたしに体を寄せた。
「どうしようか」
わたしは、じっとプチドラを見つめた。プチドラが隻眼の黒龍モードなら、リザードマンの30名程度は、ものの数ではない。何も考えなければ、とりあえず皆殺しだけど、アンジェラが見てるし、ザリーフも気分を害するだろうし、もう少し穏やかな方法があれば、といったところ。
「マスター、ボクに任せて」
プチドラは、小さい胸を小さい手でポンとたたいた。そして、わたしの肩にピョンと飛び乗り、さらに、空中に大きくジャンプ。体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。本来の隻眼の黒龍の姿に戻り、空中からリザードマンたちを見下ろした。
「★△※∀℃≡!!!」
隻眼の黒龍の声が、雷鳴のように響き渡った。わたしたちを取り囲んでいたリザードマンたちは、武器を地面に投げ捨て、次々と、頭を地に擦りつけるように平伏。ドラゴンは、リザードマンが信仰している神様の第一の使いだっけ。安直すぎるような気もしないではないが、その効果は、てきめんのようだ。
御者台では、ザリーフがホッと胸をなぜ下ろし、ずり落ちそうになった大きなメガネを指で押し上げている。これで、一応、理性的な対話が可能になったと見てよいだろう。




