ツンドラ候のその後
ゴールデンフラッグ……ではなく、ゴールデンフロッグ。なんとも紛らわしいネーミングだけど、王子や皇子への試練なら、それほど珍しい話ではない……というか、ファンタジー的には、むしろありふれた話だろう。
「次期皇帝候補者の、そのナントカさんは、近々、ゴールデンフロッグ探しに出発するわけね」
「そういうことです。彼が本当に皇帝にふさわしいかどうかを判断するという事柄の性質上、諸侯による援助等は禁止です。魔法アカデミーの魔法使いが監視役とされ、当然、その魔法使いの手助けも禁止、つまり、自分の力でなんとかせよということです」
「でも、その候補者って、そもそも、いいとこのボンボンでしょ。独力でできる?」
「さあ、それは分かりません。帝国宰相に反対する勢力が『彼では絶対にダメ』と言っていたところ、宰相が『そこをなんとか頼む』で、妥協にこぎつけたようですから、ハードルが高くなるのは止むを得ないでしょう」
これはまた、大変なことになったものだ。他人事だから、どうでもいいけど……
「それはそうと、ツンドラ候はどうなったの? 『変質者として拘留』って、まだ、捕まってるの?」
「ツンドラ候ですか。あの人は、散々な目に遭われたようです。今もそうですが……」
パターソンは、「ははは」と声を出して笑った。公然猥褻容疑で身柄を拘束されたツンドラ候は、今も拘留が続いているらしい。でも、考えてみれば、ツンドラ候といえば、帝国の政治の中枢でも重きをなす大貴族、そんな人物をいつまでも拘留しておくわけにはいかないような気もするが……
「実は、バイソン市の方でも、困っているようなのです」
ツンドラ候は、もともと(わたしの陰謀で)、ブライアンを政治的に抹殺するためのダシにされたに過ぎない。アイアンホース政権時でも、「ついでに捕まえたのはいいが、どうするか」と、扱いに苦慮していたという。しかし、アイアンホースなら、事を穏便に済ませる可能性があった。いざとなれば、長きにわたりバイソン市を牛耳ってきた彼の政治力により事件をうやむやに終わらせ、「たまたま迷い込んでいた希少動物(ツンドラ候のこと)を保護した」などと超絶技巧的な法解釈により、その希少動物を帝都に送り返すことも不可能ではなかったから。
ところが、バイソン市の政変により樹立された新政権には、外部との「パイプ」が存在しないことから、バイソン市は「ツンドラ候がバイソンの町で変質者として捕まった」という恥ずかしい事実を公表せざるを得なくなってしまった。その結果、帝国宰相は表立ってツンドラ候の釈放を要求することができず、帝国宰相に反対する勢力は、「ツンドラ候は、バイソン市の法に従って処罰されるべきだ」というスジ論を展開。帝国政府内においても意見集約ができなくなってしまった。
「帝国宰相の思うようにならないのね。それじゃ、宰相は、今頃、怒り心頭?」
「だと思いますよ。直接見たわけではありませんが」
ならば、明日あたり、帝国宰相に会いに行くことにしよう。というより、むしろ、冷やかしに。