突然の敵?
車はぬかるんだ通りを進んだ。道の両側には、多少の間隔を置いて、1階建ての木造建築が並んでいる。しかし、不思議なことに、街中に入っても、住人のリザードマンの姿は全く見えない。田舎町ということだけど、そうだとしても、これは不自然過ぎないだろうか。建物だけがあって、誰もいないなんて……
しかし、ザリーフは、呑気に鼻歌を歌いながら、
「さあ~、なんでやろな。でも、まあ、ええやん」
と、まったく意に介する様子はない。ここはこういうところだろうか。床で寝そべっているプチドラに目をやると、
「ザリーフが、ああ言ってるんだから……、やっぱり、ええんちゃう?」
プチドラにも、関西弁が伝染してしまったらしい。
車はさらに、誰もいない通りを進む。住民は、どうなったのだろう。疫病で全滅したのだろうか。そうであれば、死体が転がっているだろう。組織的な戦闘が行われ、その結果、住民全員が捕虜にされてどこかに連れ去られたなら、建物が壊されているだろう。町並みはそのままで、住民全員が忽然と姿を消すなんて、常識的には有り得ない。強力な魔法で、どこか別の世界に転移させられたなら、そういうことも……、ファンタジー的にはあり得る話だが……
しばらくすると、アンジェラも不安げに周囲を見回し、
「ザリーフさん、この町には、なぜ、誰もいないのですか?」
「う~ん、なんでやろ。おっかしなぁ~」
ザリーフも、少し心配になってきたのか、声のトーンが先刻とは違っていた。しかし、すぐに、その不安を振り払うようにスドゥキーに鞭を当て、
「でも、まあ、なんとかなるやろ」
ザリーフの神経は、割りに楽観的にできているようだ。でも、わたしは反対に悲観的。「なんとかなる」のではなく、どうしても「なんとかならない」場合のことを考えてしまう。
ちなみに、プチドラも、ここまでくるとさすがにおかしいと思ったのか、立ち上がり、油断なく周囲に目をやっていた。
そして、突然……
「⊿◆‡¶@≡\○!!!」
例によって意味不明だけど、甲高い声が響いた。それが合図だったのだろう、道の両側の建物の陰から、ショートソードやハンドアックスで武装したリザードマンが、次々と繰り出してきた。
ザリーフは御者台で飛び上がり、
「★☆★☆★☆★☆★☆!!!」
と、意味は分からないが、聞いた感じ(声のトーン等々)からすると、かなり狼狽しているようだ。
武装したリザードマンの集団は、あっという間に車を取り囲んだ。この集団、一体、何者なのだろう?