分かる人には分かる話
トードウォリアーの領域やゴールデンフロッグについて、情報を得たのはいいが、なんだか頼りなさそうな感じ。根本的な疑問として、「カエルの国旅行記」が本当に紀行文なのかどうか判然としない。紀行文の体裁を取ったフィクションという可能性もありそうだけど、ザリーフは淡々として、
「この本の、ここ、『前書き』のとこを読んでみな」
本を開き、最初の1頁目を示した。「読んでみな」と言われても読めないのだが、それはさておき、ザリーフの説明によると、前書きには「これは、私の見聞きした事実を、ありのまま、書きつづったものである」と書かれている。「だからなんなんだ」と言いたいところだけど、ザリーフ曰く「そこは、信用せな、しゃーないやん」とのこと。
なんとも怪しげな「カエルの国旅行記」だけど、発行当時は、そのセンセーショナルな噂が帝国にも伝わり、物好きな冒険者、商人、旅芸人などが、多数、トカゲ王国を訪れた(と、記録に残っている)らしい。そのような人たちを通じて、帝国にもトードウォリアーやゴールデンフロッグの話が伝わったのだろう(と、推測できる)。
ザリーフは、ずり落ちそうになった大きなメガネを指で押し上げ、
「ほな、用意しょうか。ちょう、待っといて」
持ってきた本や地図もそのままに、そそくさと部屋を出た。
「はぁ~……」
ザリーフを見送り、わたしは思わずため息をついた。大変なことになりそうだという予想はあったが、最初の予想以上に大変なことになりそうだから。
アンジェラは、不思議そうな顔をして、わたしを見上げ、
「お姉様、どうされました? なんだか元気がなさそうに見えますが」
「アンジェラ、あなたは元気?」
「もちろんです。トカゲ王国に続いて、トードウォリアーの領域ですよね。どんなところなのか、楽しみです」
アンジェラは、ニッコリと笑った。この子は、なんというか、本当に……、こういう何事につけても前向きなところは、王者にとって、必須条件だろうけど……
しばらくすると、
「すまんなぁ、だいぶ、待たせてもたなぁ」
ザリーフが、中に何が入っているのか知らないが、自分の体くらいの大きなリュックサックを背負い、再び姿を現した。そして、「どっこいしょ」と、一旦、そのリュックサックを床に下ろすと、同時に、トレードマークの大きなメガネが、頭からスルリと落下。この展開は、まさか……(以下略)……分かる人には分かるだろう(つまり、「メガネ、メガネ」という、往年の大漫才師の持ちネタなので、畏れ多くて書けない)。
ザリーフは、おもむろにメガネを拾い上げ、ひと言、
「よっしゃぁ、ほな、行こかぁ」




