「カエルの国旅行記」
トードウォリアーの領域が、とにかくすごい(あるいは「エライ」)ところということは分かったが、
「それでは、ザリーフさん、ゴールデンフロッグの正体とは?」
「そらぁ…… やっぱり、エライもんやろなぁ。まあ、見てみ」
ザリーフは、古びた1冊の本を、わたしとアンジェラに示した。「●☆¶¶@\□∴仝‡£▲≡⊿〆℃」という表題が付されているが、意味は分からない。ページをパラパラとめくってみても、やはり、同じように意味不明の記号が並んでいるだけ。
「ザリーフさん、これは、一体???」
「本やで。見たら分かるんちゃう?」
ザリーフは、「アハハ」と笑った。最初に気を持たせるような言い方をしておいて、それはないと思うけど……
「すまん、すまん。今のは冗談や」
どうやら、ボケとツッコミは、ザリーフの身に染みついているらしい。
ザリーフの話によれば、その本は、今から100年以上も前に書かれた「カエルの国旅行記」という紀行文で、当時のトカゲ王国で大ヒット、一大センセーションを巻き起こしたという。さらに、「カエルの国旅行記」をもとにした演劇や芝居が多数上演されたことから、当時は、国王や貴族から一般庶民に至るまで、その内容を知らない者は誰もいなかったとか。それで、肝心の、本の内容については、
「そらぁ、おもろいでぇ~。晩に読み出したら、朝までかかってもたわ」
ザリーフのいつもの能書きはさておき、彼の話を総合すれば、「カエルの国旅行記」とは、10人のリザードマン探検家がトードウォリアーの領域に足を踏み入れ、ワニやヒルやヤブ蚊などの自然の障害に加え、野蛮なトードウォリアーの襲撃にも苦しめられながら、それでもめげずに伝説のゴールデンフロッグを探し求めるという話。
「ということは、つまり、その当時から、ゴールデンフロッグの話があったということですか」
「そやな。『話』としては、あったんやろな。ただ、もっと昔からゴールデンフロッグの話があったかも分からんけど、その本より古い記録が見つからなんださかい、確認のしようがないわ」
「そのゴールデンフロッグというのは、結局、なんだったのですか?」
「そらぁ、やっぱり、ゴールデンフロッグやろな。それがなんか、ゆうたら……、結論的には……」
ザリーフは、ずり落ちそうになった大きなメガネを指で上に押し上げ、
「サッパリ分からへんわぁ」
すなわち、探検家一行は幾多の苦難を乗り越え、ゴールデンフロッグの核心に迫っていくのだが、最後の最後で、(その本の表現によれば)「ゴールデンフロッグの怒りに触れ、とてつもなく恐ろしいものに、1人を残して全員が食べられてしまった」とのこと。この辺りの表現は、形容詞や擬音語・擬態語が過剰で、具体的はことは、いくら読んでも、「サッパリ分からへん」らしい。なんだか、下手なラノベみたい……




