とにかくエライところ
そして、一週間が過ぎ、
「いやぁ~、ほんまにエライとこやなぁ~」
なんの前触れもなく、ザリーフが両手に書物を抱え、わたしとアンジェラのいる宮殿内の一室を訪れた。そして、ずり落ちそうな大きなメガネを外し、タオルで顔を拭き、
「ほんまにエライわぁ。ここへ来るだけでもエラかったのに、もっとエライでぇ」
例によって関西弁。見ていると、一人で漫才か漫談でもしているような……
「とにかくエライんや。あんなエライとは思わなんだわ、ほんまに」
なんだかよく分からないが、ザリーフは「エライ」を連呼している。ゴールデンフロッグがとてつもないもので、トードウォリアーの領域がとんでもない秘境だと言いたいのだろうか。
「ザリーフさん、『とにかくエライ』のは分かりましたが、具体的には、何がどのように『エライ』のですか」
すると、ザリーフは、大きなメガネをかけ直し、わたしとアンジェラの前に大きな地図を広げた。地図の中央部には、三日月型の湖が描かれていて、その湖からは、川が何本か延びている。
ザリーフは、おもむろに地図上の一点を指さし……、しかし、すぐにその指を引っ込め、
「え~っと、どこやったかなぁ…… 忘れてもたわ。どないしょ……」
と、地図を目の前にして考え込んでしまった。わたしとアンジェラが、「しょうがない人だ」とばかりにザリーフを見上げると、彼は、「してやったり」という表情で、ひと言、
「今の、ウソや。本気にしたら、あかんでぇ」
いいかげんにしなさい……
会話形式だと、なかなか話が進まないので、ザリーフの話の要点を簡潔に記そう。トードウォリアーの領域は、リザードマンの領域より南方(帝国側から見れば、リザードマンの領域よりさらに奥地)に位置する。アダブの町からは、まず南東方向に、南の大河に注ぐ支流に到達するまで、大河を遡って進み、次に、その支流を、ワニやヒルやヤブ蚊と格闘しながらどんどん奥へ進み、精も根も尽き果てるまで上流にさかのぼれば、ついには(地図には書かれていないが)大きな湖に至り、その湖の周辺がトードウォリアーの領域とのこと。
なお、南の大河と支流の合流地点には、それほど大きくはないが、リザードマンの町があるという。そこでは、休憩や買い物などができるそうだ。なんだか、聴けば聴くほど、大変な(ザリーフの言葉では「エライ」)ところのようだが……
「しかし、エライんは、そこへ行くまでだけとちゃうでぇ~」
ザリーフは、ずり落ちそうになった大きなメガネを、指で上に押し上げた。以前にどこかで聞いた話だけど、トードウォリアーとはカエル型のヒューマノイドで、一応、コミュニケーションは可能。しかし、言葉が通じないので、対面した場合、どうなるか分からないとのこと。博識なザリーフでも、トードウォリアーの言葉は知らないらしい。