宴会が終わって
宴会は、明け方近くになって、ようやく終わったらしい。というのは、わたしとアンジェラは眠くなって途中退席していたから。正確な終了時刻は不明。
わたしたちは、王宮内の一室に通され、そこで就寝した。話によれば、わたしとアンジェラと隻眼の黒龍は、国賓並みの待遇で迎えられているとのこと。隻眼の黒龍がリザードマンの信奉する神の第一の使いだったり、前の戦役での功績が(おそらくは過大)評価されたりしたこと等が、その理由という。反面、帝国でのわたしの爵位については、せいぜい補強材料くらいにしかならなかったとか。
なお、言葉の問題については、トカゲ王国の政府内にも帝国の言葉が分かるリザードマンがいて、通訳を務めてくれることになったので、問題となるまでもなく解決した。国王が帝都に出向く時には、彼が常に通訳として同行しているとのこと。
ちなみに、そのリザードマンは、非常に話し好きで、
「この前の皇帝陛下の葬儀の際は、大変でした。帝国の標準語ならまだしも、エルフやドワーフの言葉には参りました。適当にごまかしましたが、それで通じるんだから……」
話を聞いていると、多少、いい加減なところもありそうな感じ。
でも、それはそれとして、
「あなたはいわゆる標準語のようですが、ザリーフさんが喋るのを聞いていると、少し、いや、かなり違うというのか、独特というのか……、あれは、一体?」
「ああ、あの人ですね。あの人はあの人で……、思うところがあるんでしょうね。私には分かりませんが、彼に教えた人があんな喋り方だったのかなあ。いや~、分からない」
この通訳のリザードマンも、捉えどころがなくて、なんだかよく分からないが……
なお、隻眼の黒龍は、宴会では最後まで大活躍(どういう意味だろう?)だったらしく、本人曰く、宴会のフィナーレを飾る「市民総出の大バトルロワイヤル大会」では、特大金網デスマッチの不利をものともせず、前回チャンピオンでトカゲ王国最強の戦士キファーフ・アル・カッハールをやっつけたとか。でも、わたしには、その大会がどのようなものか、まったく想像がつかない。
のみならず、トカゲ王国国王は、隻眼の黒龍の「大活躍」にいたく感服したようで、宴会の翌日には、国王自ら足を運び、わたしとアンジェラと隻眼の黒龍のトカゲ王国への仕官を勧めた。「近々、帝国領に侵攻する予定なので、味方になってくれれば心強い」らしい。作戦の詳細は明らかにできないとのことだけど、フサイン部隊長が重要な任務を帯びて南方大要塞で秘密工作を行っているというのは、このことが関係しているのだろう。ただ、この時期に侵攻とは、いささか唐突な感もあるが、国王によれば、「先頃、皇帝が崩御し、次の皇帝がまだ決まっていないようなので、自分が皇帝になれば、万事OKだろう」という、なんだかよく分からない理屈。そのことを質問すると、国王曰く、「自分を皇帝として認めたくないなら、それでもいいよ。でも、その代わり、帝国内の地位をもっと上げてもらうぜ」ということで、どうやら、帝国内での地位の向上が本当の目的らしい。わたしは、とりあえず、「立場的には困難ですが、後ろ向きには考えないようにします」と、適当にお茶を濁した。




