ゴールデンフロッグ
パターソンは、なぜか少し困惑気味に、
「次期皇帝候補者の名前が挙がったのはいいのですが、結論的には、候補者が『ゴールデンフロッグ』なるものを捜さなければならないことになったようです」
「なんなの、その『ゴールデンフラッグ』って…… 黄金の旗?」
いきなり固有名詞を出されても、なんのことなのか、サッパリ分からない。
「いえ、『ゴールデンフロッグ』、言ってみれば、『黄金の蛙』です。現在、その黄金の蛙の正体を調査中なのですが、手に入れるためには、南方のトカゲ王国より、さらに奥地、南方の秘境に行かなければならないこと以外、分からないのです」
「あら、そう。でも、どうして皇帝候補者が、そのゴールデンフロッグを?」
「実は、その辺り、話せば長い事情がありましてね」
と、パターソンは苦笑い。
話によれば、わたしがバイソン市の市長選挙に首を突っ込んでいる間、帝国宰相を首班とする「次期皇帝選出委員会」が発足し、ツンドラ候もその委員に選ばれていたとのこと。「委員会」や「審議会」と名のつくものは、何事につけても鈍重なのが定番だけど、次期皇帝選出委員会だけは違っていたようで、精力的に活動を進め、次期皇帝の候補者を1人に絞り込むまでに至った。ちなみに、その候補者は、前皇帝と一番血縁関係が近く、名前はナントカという人(名前は忘れた)。年はまだ15歳だとか。帝国宰相の傀儡だろうか。
「これだけ早く扱いやすそうな後継者が決まるなんて、帝国宰相としては万々歳?」
「このまますんなりと決まれば、万々歳でしたが、そうはいかなかったのです」
パターソンは話を続けた。それによると、実は、そのナントカさんを次期皇帝に推挙したのは、帝国宰相の意を受けたツンドラ候だった。次期皇帝が誰になろうが、ツンドラ候には興味も関心もない。帝国宰相におだてられて、会議の場で宰相の意中の人物を強く推薦したのだろう。現在、帝国宰相とツンドラ候のコンビに表立って逆らえる者はいない。アート公、ウェストゲート公、サムストック公など、帝国宰相に反対する勢力は、歯噛みして口惜しがったことだろう。
「ところが、ツンドラ候の『不祥事』で、話がややこしいことになっちゃったんですよ」
パターソンはニヤリとして言った。即ち、ツンドラ候が帝都で行方不明になり、後にバイソン市で変質者として拘留されていることが明らかになったことから、次期皇帝選出委員会の会議の場で、「変質者の推挙した人物を皇帝として戴くのはどうか」という声が反対派から上がったとのこと。帝国宰相の権勢でも、このような真っ当な意見を封じることはできず、しかも、変質者と「義兄弟」である帝国宰相に対して直接的な批判の声も出たため、結局、会議がグダグダになって収拾がつかなくなったとか。
「え~っと、一応、話の流れは分かったけど、その話とゴールデンフロッグとは、一体、どういう関係?」
「それは、つまり、ツンドラ候の推薦した人物を次期皇帝として推戴する条件が、ゴールデンフロッグの発見なのです。要は、皇帝としてふさわしい武勇と知性を示せということですね」