関西弁のリザードマン
突如として現れた関西弁(及び大きなメガネ)のリザードマンは、わたしたちの前にスッと腰を下ろし、
「ほんまに、帝国の人がここまで来るんも、久しぶりやなぁ。何年ぶりやろな~。この前に来たんは、いつやったかなぁ……」
と、しばらく頭に手を当てて考えた後、
「え~っと、いつやったか忘れてもた。しゃーないなぁ。でも、まあ、ええわ」
なんだか、このリザードマンだけ、かなり、ノリからして異質のような気がする。
「それはそうと、あんたら、帝国のどの辺から来たん?」
わたしとアンジェラは顔を見合わせた。関西弁のリザードマンは、あまりにもサプライズな出会いだけど、見ていると、邪悪な感じや悪者っぽい印象は受けない。
わたしは、一応、居住まいを正してから、
「帝都からです。その後、南方大要塞で、昔知り合ったフサイン部隊長に会いまして……」
すると、関西弁のリザードマンは、「へぇ!」と驚き、
「ほな、あんたら、フサイン部隊長のこと、知ってるんや。フサインさんも、ほんま、顔が広いわぁ」
「ということは、あなたもフサイン部隊長のことを御存知?」
「知ってるでぇ。いや、知ってるゆうか、友達やな。なんで友達になったんか、よう分からんけどな」
関西弁のリザードマンは快活に「ハハハ」と笑った。一風変わった人(精確にはリザードマン)みたいだけど、酒宴で都合よく言葉が通じる(なぜ関西弁なのかは、この際、問うまい)リザードマンが現れて、しかも、フサイン部隊長の知り合いということは、いつものパターンからすれば……
「あの~、失礼ですが、御名前をお伺いできますか?」
「名前か? そんな、大したもんちゃうけどなぁ。一応、名乗っとこか。わしはザリーフ。王立研究所で、地誌学の研究やってるんや」
やっぱり!? 最初に抱いていたイメージには合わないけど、この関西弁のリザードマンが、フサイン部隊長紹介のザリーフらしい。
わたしは、フサイン部隊長が書いてくれた紹介状をザリーフに見せて、自己紹介。身分を隠す必要はなさそうなので、ウェルシー伯のカトリーナ・エマ・エリザベス・ブラッドウッドと、久々にフルネームで挨拶。なお、アンジェラはわたしの妹、隻眼の黒龍は、そのまま伝説の隻眼の黒龍として紹介した。
ザリーフは、ずり落ちそうになった大きなメガネを押し上げ、
「へぇ~、そうやったんかぃ。と、ゆうことは……、そうや、ひょっとしたら、あんたら、この前の帝国との戦役の時に、うちらの助っ人になってくれたんちゃう?」
言われてみれば、以前、トカゲ王国軍に「義によって助太刀」云々みたいなこともあって……、というわけで、わたしは肯定する意味でニッコリとうなずいた。
すると、ザリーフはピョンと、飛び上がるようにして立ち上がり、「◆@#$……」と、(意味は分からないが)何やら大声で叫び始めた。その声を聞いたリザードマンは、なぜだか、次々と、わたしたちの間近にまで駆け寄ってくる。一体、なんなんだ???




