饗宴か狂宴か
饗宴というか狂宴というか……
リザードマンたちは、わたしとアンジェラを囲み、思い思いに飲み、食い、踊っていた。ここにいるのはリザードマンばかりで、他種族の姿は見当たらない。派手派手衣装の(政府高官と思しき)リザードマン、甲冑を身につけた(武官と思しき)リザードマン、腰布を1枚当てただけの(農夫と思しき)リザードマンなど、いろいろなリザードマンがいる。彼らは宴になれば完全に無礼講のようで、相手が誰であれ関係なく酒を酌み交わし、手と手を取り合い踊り狂っていた。ちなみに、隻眼の黒龍は、調子に乗って、リザードマンたちと一緒に、酒の入った甕をラッパ飲みで次々と空にしていく。
いつのものことながら、エレガントとはいかなくても、もう少し上品な楽しみ方ができないものだろうか。
最初は面白そうにリザードマンたちを観察していたアンジェラも、そのうちに、やや、あきれ顔になって、
「お姉様、これは、一体……」
「アンジェラ、種族は問わず一般論として、悪い大人のマネをしてはダメよ」
アンジェラはこくりとうなずいた。お手本にしてよい人と、してはいけない人の区別はつくようだ。アンジェラが下品な振る舞いを覚えては困ると思ったが、心配いらないらしい。
それはさておき……
「わたしたちは、上品に宴を楽しみましょう」
ちなみに、わたしたちの目の前にも料理が山と積まれている。肉、魚、野菜、フルーツ等々、素材に多少の味付けをしたものばかり。手の込んだ料理はないが、素朴な味はなかなかのもので、いくら食べても飽きが来ない。
わたしが夢中になって目の前のごちそうを平らげていると、
「お姉様…… あの……」
不意に、アンジェラが、わたしの服の袖をそっと引いた。
「どうしたの、アンジェラ」
「そこに、人が……、いえ、リザードマンが……」
見上げると、わたしとアンジェラのすぐ傍に、ひとりのリザードマンが立ち、わたしたちを見下ろしていた。自分は食事に夢中になっていて気がつかなかったけど、アンジェラは、なかなかするどい。
そのリザードマンは、黒っぽいローブを身につけ、大きなメガネをかけ、わたしたちをジーッと観察している。わたしたちにとってリザードマンが珍しいように、このリザードマンにとっても、わたしたちが珍しいのだろう。
「え~っと……」
しばらくすると、そのリザードマンは口を開いた。うまい具合に帝国の言葉のようだ。
「何か御用かしら?」
「毎度~、帝国の人でおますか? はるばる、御苦労さんです」
「はい!?」
言葉が通じるのはありがたいけど、何故に関西弁???