紹介状
そして、その翌日、
「マスター、朝だよ。起きてよ」
「お姉さま、もうすぐ、昨日のあの人との約束の時間です」
わたしは、プチドラとアンジェラに、多少の誇張を交えて表現すれば、文字どおりたたき起こされ、
「ああ、そういえば……」
と、寝ぼけ眼をこすりながら、固いベッドから身を起こした。フサイン部隊長は、出勤前にドクガエル亭に立ち寄ってくれることになっている。そろそろ時間だろう。
わたしたちは、ごく簡単な食事を済ませて身支度を整え(例によって、伝説のエルブンボウなどが入った袋を持って)、部屋を出て1階へと続く階段を降りた。
1階食堂部分のカウンターでは、オヤジがヒマそうに大あくびしていたので、何気にチクリとひと言、
「今まで泊まった中で、最高の宿だったわ」
「そうかい、ありがとよ」
と、ニッコリ。理解力が不足しているのか、言われ慣れているのか、残念ながら、皮肉は通用しないようだ。
ドクガエル亭の外、昨夜話をした場所には、既にフサイン部隊長が到着していた。
「おはようございます、フサイン部隊長。お待ちいただいたようで、申し訳ないです」
「いや、俺の方が、早く来すぎたかもしれない。気にすることはないよ」
フサイン部隊長は、おもむろに、懐から封をした巻物を取り出し、
「これが紹介状だ。アダブの町にザリーフという学者がいる。相当な博識だから、何か役に立つことを教えてくれるだろう」
話によれば、アダブの町は、現在のトカゲ王国の首都であり、王宮のほか、寺院や学術機関など、さまざまな組織が整備されているとのこと。ザリーフは、学術機関(言うなれば「トカゲ王国総合大学」みたいな)で地誌学の研究をしているという。フサイン部隊長とどこでどのようにして知り合ったのかよく分からないが(部隊長によれば、「ふとしたことから」らしい)、ともあれ、研究者ならば知識は豊富だろう。トードウォリアーの領域やゴールデンフロッグについて、何か役に立つ情報を得られるかもしれない。
なお、アダブの町は、南方大要塞から南の大河の支流を下ったところの、本流との合流地点にある広大な湖の畔に位置するとのこと。
「フサイン部隊長、いろいろとありがとうございました」
「いや、このくらいのことで、礼には及ばないよ。大した助けにはならなくて、申し訳ないがね」
フサイン部隊長は、はにかんだような微笑を浮かべた。案外、シャイな人かもしれない。
「それじゃ、気をつけてな」
と、手を振って、フサイン部隊長は小走りに職場へ駆けていった。




