トードウォリアーの領域
ひととおり再会を喜び合うと、フサイン部隊長は(元フサイン部隊長あるいは旧フサイン部隊長と呼ぶべきかもしれないが)、ちょっぴり怪訝な顔で、
「ところで、どうしてこんな辺鄙なところに? 観光旅行というわけではあるまい」
「ええ、実は、そのことですが……」
わたしは、リザードマンの領域よりもさらに南のトードウォリアーの領域まで、ゴールデンフロッグを探しに行くことになったいきさつについて、簡単に話した。なお、今回の旅の発端(ミーの町で領主としての仕事が面倒になって逃げ出してきたこと)については、当然のごとくだけど、一切、触れていない。
すると、フサイン部隊長は、驚いてわたしを見つめ、
「トードウォリアーの領域でゴールデンフロッグだって!? そりゃ、また、大変なところに、大変なものを……」
「『大変な』とは、具体的には、何が、どのように大変なのですか?」
「う~ん、『具体的に』と言われると、説明が難しいな。本当のところ、人づてに聞いた話しか知らないんだ」
と、フサイン部隊長は苦笑するのだった。
ともあれ、フサイン部隊長の話によれば、トードウォリアーの領域は、トカゲ王国を縦断し、それよりさらに南にどんどんと進み、精も根も尽き果てたところで、ようやくたどり着くくらいの、ものすごい秘境。距離感がサッパリつかめないが、そもそも、正確な位置を知っている人など誰もいないのだろう。
また、さらに輪をかけて大変なのが、トードウォリアーとのコミュニケーションとのこと。トードウォリアーは独自の言語・文化を持ち、独自の社会を形成しているが、帝国のみならず、トカゲ王国ともほとんど交流がないという。イメージ的には、(国語的に本来の意味での)土人の(国語的に本来の意味での)部落みたいなものだろう。フサイン部隊長は、さすがにトカゲ王国での暮らしが長いだけあって、結構、よく知っている。
「トードウォリアーのことは少しだけ分かりましたが、それでは、ゴールデンフロッグとは?」
「うむ、それについては……」
フサイン部隊長は、少しだけ間を取り、
「実は、俺もよく知らないのだ」
と、もう一度、苦笑した。思わせぶりなことを言っておいて、「知らない」ですか……
「ゴールデンフロッグなるものがトードウォリアーの領域にあるという話は、聞いているが……」
フサイン部隊長は、すまなさそうに頭をかいた。でも、知らないなら仕方がない。トードウォリアーについて、多少、知識を仕入れることができたから、それでよしとしよう。
フサイン部隊長に礼を言ってドクガエル亭に戻ろうとすると、部隊長は、わたしを呼び止め、
「俺の知り合いで、こういったことに詳しそうな人、いや、リザードマンがいる。紹介状くらいなら書くよ」
そのリザードマンがどれくらい当てになるか分からないが、とりあえずはラッキー。




