一応無事に
食堂は、一瞬、静まりかえった。しかし、次の瞬間には、あちこちから歓声や喝采が上がり、これまで以上に騒然となった。「いいぞ!」、「もっとやれ!」、「強いぞ、姉ちゃん!」など、褒められているのか皮肉を言われているのか分からないが……
一撃を食らいのびている酔っぱらい衛兵の仲間らしい3人は、面目を潰されたと思ったのか、椅子から立ち上がり、ゆっくりとこちらに近づいてきた。こういう場合は先手必勝。プチドラの火力で焼き尽くしてやろう。
わたしは慌てず騒がず、背後からプチドラを、胸の位置まで抱え上げ、
「プチドラ、とりあえずFIRE。 あの3人をやっつけるのよ」
ところが、プチドラは、ややためらいながら首を後ろに向け、
「それはちょっと…… こんなに人がいる中で問題を起こせば、後で面倒なことになるかもしれないよ。しかも、相手はこの町の衛兵っぽいし」
「もともと、酔っぱらいから身を守るための正当防衛でしょ。気にすることはないわ」
「でもなあ……」
そうこうしているうちに、3人の衛兵は、わたしの目の前まで迫ってきた。他の客(衛兵や警備兵等々)は、輪になって、わたしと3人の衛兵を取り囲む。
その3人(一撃を食らいのびている衛兵を含めれば4人)のリーダー(親分、ボス、代表者?)だろうか、一番体の大きい男が、一歩、前に進み出て、
「可愛い顔をして、姉さんよ、なかなか、えげつないことをするじゃないか」
「あなたも同じ目に遭いたいかしら?」
「強がるのもいいが、やはり時と場所をわきまえるべきだぜ。場合によっては、この食堂にいる俺たち全員を相手にすることになるんだからな。へっへっへっ」
衛兵は、気持ちの悪い下卑たイヤらしい視線をわたしに注いでいる。周囲の野次馬からは、「やれー!」、「いけー!」、「一気、一気!」など、なんだか意味が分からないが、動物的な本能丸出しの声。ただ、そろそろヤバイ雰囲気になってきたかも。プチドラは、ようやく本気になったのか、小さくうなずいた。
そして、プチドラが火力を解放しようと口を開けた、その瞬間、
「待て、待て、待て~」
どこからやって来たのか、浅黒い肌の中年男が野次馬をかき分け、わたしと3人の衛兵の間に割って入った。気勢を削がれた形になったプチドラの口から、モクモクと不完全燃焼の黒煙が上がっている。
中年男は、「まあまあ」と3人をなだめ、
「そう興奮するな。この人は俺の連れだ。粗相があったなら、後で必ず埋め合わせをするから、とりあえず、この場は俺の顔を立ててくれないか」
「チッ、班長の女かよ! だったら、しょうがないな」
なんだか気になる表現だけど、ともあれ、3人の衛兵は、不満の色に出しながらも、のびている酔っぱらい衛兵を引きずり、もといた席に戻っていった。