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ザ☆旅行記Ⅸ 南方探検記  作者: 小宮登志子
第5章 あの人は今
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意外にも食事には満足

 時間がたつにつれ、喧噪はますます激しくなっていった。騒いだり歌ったりするだけならまだしも、服を脱いで踊り出したり、取っ組み合いを始めたり、食堂は、まさにアナーキー。でも、オヤジもウェイトレスも見向きもしない。ここではこれが日常的な光景のようだ。アンジェラは脅え、わたしの脇でブルブルと震えている。

 その時、突然、顔を真っ赤にした衛兵が、「うぃ~」と酒臭い息を辺りにまき散らしながら、ドスンとわたしの足下に倒れこんだ。

 しかし、衛兵はすぐに、フラフラと頭を揺らしながら立ち上がり、

「よぉ~、姉ちゃん! ここは、お子ちゃまの来る所じゃないぞ。罰として、そうだなぁ、このステキなおじさまに、お酌をしてもらおうか」

 と、下品な顔をわたしに近づけた。

 わたしは「このセクハラ野郎め!」と、眉をひそめた。普段なら、プチドラの攻撃力を絶対的な後ろ盾として張り倒すところだ。でも、ここは……、とりあえずは自重しよう。自分から騒ぎを起こすことはない。

「どうしたんだよ。なんとか言えよ。こらぁ~」

 衛兵はしつこくカラむ。内心の怒りを顔に出さず我慢していたけど、そろそろ限界(わたしの忍耐力など、この程度のものだ)。わたしはキッとその衛兵をにらみつけ、右腕を高く差し上げた。

 その時、浅黒い肌をした中年男(ちなみに、この男も、お揃いの安っぽい甲冑を着ている)が衛兵に近づき、

「おい、いい加減にしないか。悪ふざけも度が過ぎるぞ」

「なに~……」

 衛兵は血走った目で中年男をにらんだ。しかしすぐに、「チッ」と舌打ちして、ブツブツ文句を言いながら、その場を離れた。

 中年男は礼儀正しく一礼し、

「申し訳ない。普段はおとなしいヤツなのだが、酒癖が悪くて…… あっ、あれ?」

「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない。とにかく、部下の非礼はお詫びする」

 中年男は、何かに驚いたように、あたふたとその場を去っていった。一応、酔っぱらい衛兵の上官のようだが、一体、なんなんだか……


 しばらく待っていると、体の大きいウェイトレスが料理を運んできた。ウェイトレスは何も言わずに「カワクジラのステーキ」3人前を机の上に置くと、何も言わずにカウンターの方に戻っていった。

「サービスが悪いわね。料理の味がよければ許すけど、果たして、どうかしら」

 皿に盛られたカワクジラのステーキからは、香ばしい肉の香りが広がっている。見た目、ゲテモンという感じはない。プチドラは口を大きく開け、両手で皿を持ち上げると、カワクジラのステーキを一気に腹の中に流し込んだ。アンジェラもナイフとフォークでステーキをきれいに切り分け、口に運んでいる。ならば、わたしも……

「うまい!」

 わたしは小さく声を上げた。まったりとして、こってりとして、しかし、それでいて後味はあっさりと……、というわけで、とりあえず、食事には満足。

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