意外にも食事には満足
時間がたつにつれ、喧噪はますます激しくなっていった。騒いだり歌ったりするだけならまだしも、服を脱いで踊り出したり、取っ組み合いを始めたり、食堂は、まさにアナーキー。でも、オヤジもウェイトレスも見向きもしない。ここではこれが日常的な光景のようだ。アンジェラは脅え、わたしの脇でブルブルと震えている。
その時、突然、顔を真っ赤にした衛兵が、「うぃ~」と酒臭い息を辺りにまき散らしながら、ドスンとわたしの足下に倒れこんだ。
しかし、衛兵はすぐに、フラフラと頭を揺らしながら立ち上がり、
「よぉ~、姉ちゃん! ここは、お子ちゃまの来る所じゃないぞ。罰として、そうだなぁ、このステキなおじさまに、お酌をしてもらおうか」
と、下品な顔をわたしに近づけた。
わたしは「このセクハラ野郎め!」と、眉をひそめた。普段なら、プチドラの攻撃力を絶対的な後ろ盾として張り倒すところだ。でも、ここは……、とりあえずは自重しよう。自分から騒ぎを起こすことはない。
「どうしたんだよ。なんとか言えよ。こらぁ~」
衛兵はしつこくカラむ。内心の怒りを顔に出さず我慢していたけど、そろそろ限界(わたしの忍耐力など、この程度のものだ)。わたしはキッとその衛兵をにらみつけ、右腕を高く差し上げた。
その時、浅黒い肌をした中年男(ちなみに、この男も、お揃いの安っぽい甲冑を着ている)が衛兵に近づき、
「おい、いい加減にしないか。悪ふざけも度が過ぎるぞ」
「なに~……」
衛兵は血走った目で中年男をにらんだ。しかしすぐに、「チッ」と舌打ちして、ブツブツ文句を言いながら、その場を離れた。
中年男は礼儀正しく一礼し、
「申し訳ない。普段はおとなしいヤツなのだが、酒癖が悪くて…… あっ、あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。とにかく、部下の非礼はお詫びする」
中年男は、何かに驚いたように、あたふたとその場を去っていった。一応、酔っぱらい衛兵の上官のようだが、一体、なんなんだか……
しばらく待っていると、体の大きいウェイトレスが料理を運んできた。ウェイトレスは何も言わずに「カワクジラのステーキ」3人前を机の上に置くと、何も言わずにカウンターの方に戻っていった。
「サービスが悪いわね。料理の味がよければ許すけど、果たして、どうかしら」
皿に盛られたカワクジラのステーキからは、香ばしい肉の香りが広がっている。見た目、ゲテモンという感じはない。プチドラは口を大きく開け、両手で皿を持ち上げると、カワクジラのステーキを一気に腹の中に流し込んだ。アンジェラもナイフとフォークでステーキをきれいに切り分け、口に運んでいる。ならば、わたしも……
「うまい!」
わたしは小さく声を上げた。まったりとして、こってりとして、しかし、それでいて後味はあっさりと……、というわけで、とりあえず、食事には満足。




