衛兵のたまり場
わたしは伝説のエルブンボウなどの貴重品を袋に入れ、プチドラを抱き、アンジェラを連れて部屋を出た。階段を降りると、それほど大きくない1階の食堂では、客が徐々に入り始めていた。ただ、客は皆、お揃いの安っぽい甲冑を身につけていて、冒険者というよりも衛兵あるいは町の警備兵のように見える。
「どうやら、ここは、衛兵のたまり場のようだね。何事も起こらなければいいけど」
プチドラはぐるりと左右を見渡し、「う~ん」と難しい顔をして言った。
「そうね。何を言いたいのか、大体、分かるわ」
町の入り口(城門)で見た衛兵の態度にかんがみれば、彼らと同じところで食事して、無事に済むとは思えない。なんやかやと因縁をつけられ、トラブルに発展するのは目に見えている。
おそらくは、この店は衛兵のたまり場になっているから、元々少ない冒険者が更に寄りつかなくなっているのだろう。せっかくアンジェラが冒険者の宿を発見してくれたけど、今回は(この町の軍人が異常に威張り散らしているという特殊事情の前で)裏目に出てしまったようだ。
アンジェラは、不安げな表情を浮かべ、わたしの背後に隠れるようにして、
「お姉様……」
「心配いらないわ。いざという時には、プチドラの火力で、どうにでもなるから。とにかく、行きましょう」
こんなところでまごまごしていても仕方がない。場合によっては、プチドラにすべてを焼き尽くしてもらうことにしよう。その後のことは、その時になって考えればいい。
わたしたちは、食堂で適当なテーブルについた。メニューを見ると、「特大ドクガエルの姿焼き」、「ワニのしっぽの唐揚げ」、「陸生ユウレイクラゲの味噌漬け」など、気味の悪そうな料理が並んでいる。いや、もはや料理ではなく、ゲテモンの類ではなかろうか。
しばらくすると、体の大きい中年のウェイトレスが注文を取りに来た。見上げると、結構、迫力がある。ガラの悪い衛兵が相手だから、頑丈でパワーがなければ、ウェイトレスとして務まらないのだろう。
わたしはひととおりメニューを見回したうえで、一応、有害ではなさそうなものとして、
「それじゃ、この『カワクジラのステーキ』を……」
すると、アンジェラも無言でうなずいた。彼女とも意見が一致したようだ。プチドラの分も含めてカワクジラのステーキを3人前注文すると、ウェイトレスは一礼し(しかし、ニコリともせず)、戻っていった。
しばらく、料理が来るのを待っていると、店内では、どんどん客が増えていった。でも、冒険者風の人はいない。どれも皆、衛兵や警備兵といったいでたちをしている。彼らは席につくなり酒を注文し、大きな声を出したり、歌ったり、とにかく、ガラの悪さはマンガに描かれる海賊以上。
アンジェラは顔面蒼白になり、わたしにしがみついた。あまり長居するとロクなことはないだろう。さっさと食事を済ませ、面倒なことに巻き込まれる前に部屋に戻らなければ。




