ドクガエル亭
わたしはドクガエル亭の入り口のドアを少し(顔が通るくらいに)開け、中をのぞき込んだ。1階部分は、別に、なんということのない食堂のようだ。入口から見て、手前にテーブルがいくつか並び、その向こうにはカウンター、そして、カウンター脇には大きなボードがあり、ボードには紙片(冒険者に対する仕事の依頼等を示す)が貼り付けられている。さらにボードの陰には2階へと続く階段があり、宿泊用スペースにつながっている。
ただ、少し気がかりなのは、店の中に入ってみても、冒険者らしい人たちの姿が見えないこと。ボードに貼り付けられている紙片の数も少ない。ここでは、有料情報や仕事の依頼は多くなさそうだ。
それはさておき、今日は疲れた。とりあえず部屋でゆっくり休むことにしよう。
わたしは入り口のドアを「エイヤ」と大きく開け、
「こんばんは。部屋はあるかしら?」
「あるよ」
カウンターの奥から、ぶっきらぼうなオヤジの声が響いた。クラーケンの宿もそうだったけど、冒険者の宿のオーナーは、愛想が悪いと決まっているらしい。
「料金は前払い制だ。2人分合計で、金貨2枚いただくよ」
と、オヤジはカウンターから大きな手を差し出した。ひとり当たり金貨1枚というと、少し割高のような気もするが、選択の余地はない。オヤジの手の上に金貨2枚を置くと、オヤジは、一旦、カウンターの奥に引っ込み、しばらくすると小さなカギをつまんで戻ってきた。
「これが部屋のカギだ。多分、使えると思うよ。」
使えなければ困るんだけど、「多分」って……、なんといい加減な……
わたしはカギを受け取り、プチドラを抱いてアンジェラの手を引き、2階に上った。オヤジの話によれば、部屋は2階の一番奥とのこと。今のところ、宿泊客はわたしたち以外にいないので、大騒ぎしても大丈夫だとか。この町に入る際に散々待たされたけど、訪問者へのチェックが厳しすぎるせいで、町に冒険者が寄りつかないのだろう。こんなところで、本当に経営が成り立っているのか、かなり疑問。
一番奥のドアを開けると、部屋は思いの外、広く、10畳ほどのスペースだった。その中に、粗末なベッドがふたつ置かれている。
わたしが「よいしょ」とベッドに腰を下ろすと、アンジェラは、「えい」と元気に、ベッドに飛び込んだ(その際には、ギシッと床がきしむような音が……)。アンジェラは、さすがに子どもだけあって、元気いっぱい。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「さあ、これからどうしようか……」
しかし、考えるまでもなかった。同時に、わたしとプチドラの腹が「グゥー」と悲鳴を上げたから(前にも同じパターンがあったような)。もうすぐ日が暮れる。高級な料理は望めないだろうが、とりあえずは夕食にしよう。