町の中
町の中では、ここはいかにも軍事都市らしく、あちこちに重武装の騎士や従者の姿が見えた。町の警備を担当しているのだろう。騎士や従者は、「我々がおまえたちを守ってやってるんだぞ」と言わんばかりに、肩で風を切って歩いている。
町の人たちは、とにかく関わり合いになるのを恐れてか、通行中は顔を伏せ、騎士や従者と視線が合いそうになると、サッと細い路地に隠れてしまう。多分、陰では散々に悪口を言っているだろう。
アンジェラは、物珍しそうに周囲をキョロキョロと見回し、初めての町に興味津々の様子。とりあえず街中を散策するのも悪くないだろう。でも、今は、ゆっくりと歩き回る時間がない。入り口(城門)のところで待たされたせいで、時刻は既に夕刻になっている。
「さて、まずは、宿泊先を確保しないとね」
今度は、わたしが周囲をキョロキョロと見回した。プチドラも、ピョンとわたしの肩に飛び乗り、小さい手を水平に額に当てて辺りを見渡す。大きな町だから、どこかに、いわゆる「冒険者の宿」くらい、あるだろう。ちなみに、冒険者の宿とは、宿泊施設に食堂と情報屋を兼ねたようなもので、宿泊料金その他諸々の点において、お金に余裕のない冒険者から重宝がられている。
ところが……
「う~ん、なかなか見つからないわね。」
予想に反し、冒険者の宿らしいものは、周りには見当たらなかった。プチドラも、わたしの肩の上で、「ダメだね」とばかりに首を振っている。
アンジェラは、何やら自信ありげにわたしを見上げ、
「あの~、お姉様、宿泊先をお探しでしたら、多分……」
アンジェラは、クルッと向きを変え、ゴミゴミとした狭い通りを指さした。
「ここは初めてじゃなかったっけ。どこに宿があるか、分かるの?」
「ええ、だいたい、どの町でも同じようなところにあると思います。わたしの予想が正しければ、こっちにあるはずなのですが」
そういえば、アンジェラは、わたしと一緒に来るまで、冒険者の宿(グレートエドワーズバーグの町の「クラーケンの宿」)のオーナーの娘として育てられてきたのだった。もともと同業者ということで、冒険者の宿がありそうな場所は、おおよその見当がつくのだろう。
アンジェラが示した方向に行ってみると、果して、「ドクガエル亭」なる看板がかかった怪しげな建物があった。木造二階建てで、それほど大きなものではない。甲冑に身を包んだ戦士やローブを着た魔法使いなど、冒険者っぽい連中の姿が見えないのが気がかりだけど、ドクガエル亭がこの町の冒険者の宿のようだ。
「ありがとう、アンジェラ。あなたのおかげで助かったわ」
いつもなら、道に迷ってあちこち歩き回り、無駄に体力を消費するのがパターンだけど、アンジェラのおかげで労力を大幅に節約することができた。アンジェラを捕まえて頭を撫で撫ですると、彼女は恥ずかしそうに首をすくめた。




