高尚な芸の世界
「芸ですか。ならば……」
わたしはニヤリとして言った。実のところ、芸には、多少、心得がある。ガラの悪い衛兵どもにはもったいないが、高尚な芸の世界を、ほんの少しだけ披露してやろう。
「それでは、参ります……」
わたしは、おもむろに2、3歩、前に進み出た。
衛兵たちは、イライラしているのだろう(さっきからだけど)、ドンドンと地面を踏みつけ、
「能書きはいいから、さっさとやれ!」
本当に品がない連中だ。彼らにあまり高度な芸は理解できまい。
ならば……
「隣の家に囲いができたんだってねぇ」
そして、ここでひと呼吸置いて、すっとぼけた表情を作り、更にひと言、
「へぇ~」
完璧に決まった(と、自画自賛)。分かる人にしか分からないだろうが、これは、某高名歌手が、その昔、言葉の通じない外国人でさえ笑わせたという、超有名ギャグ。
ところが……
衛兵たちは難しい顔をして、しきりに「うーん」と首をひねっている。
「おい、今のは、一体、なんなんだ?」
「知性と教養を必要とするユーモアです。分かりませんか。分からないということは、つまり……、まあ、そういうことです。お分かり?」
「黙れ! 子供だと思って甘い顔をすると、すぐに、つけあがりやがって!!」
おちょくられたと思ったのだろう(実際、そうなのだけれど)、衛兵たちは、怒りに顔を醜く歪ませて立ち上がった。これだから、「御」バカさんたちは困る。
わたしはプチドラを抱き上げ、
「頼むわ。なんとかして」
「『なんとか』と言われても……」
プチドラは、「うーん」と小さな腕を組み、ブツブツと何やら魔法の呪文。
すると、衛兵たちはどういうわけか、ニコニコと顔に笑みを浮かべ、言葉遣いも丁寧になって、
「え~、失礼いたしました。書類に不備はございません。したがいまして、どうぞ、お通り下さい」
と、わたしたちに道を開けた。
プチドラは、わたしの肩に飛び乗り、耳元で、
「衛兵たちの心を『支配』したよ。効果の持続時間が限られてるから、早く」
なんだかよく分からないが、魔法の力だろう。そんな便利な魔法があるなら、最初に言ってくれればよかったのに……
ともあれ、兎にも角にも「通っていい」ということだから、
「アンジェラ、行くわよ」
わたしは、プチドラを抱き、アンジェラの手を引いて、悠々と町の入り口(城門)をくぐった。




