ようやく順番が回ってきて
そして、さらに長時間待っていると、やがて……
「さあ、次はどいつだ? さっさとしろ、バカ」
衛兵の声がした。順番的には、次は、わたしたち。でも、いきなり「バカ」とは、失礼な連中だ。時間がかかるのは、そもそも、連中のチェックが意味もなく厳重に過ぎるからではないか。こういうような、下っ端の分際で調子に乗って、与えられた権力を無闇矢鱈と振りかざす輩には、ガツンといってやる必要がある。ここは、いっそ、プチドラの火力で強行突破を……
ところが、プチドラはダメダメというように、わたしの服の袖を引っ張って、
「まあまあ、マスター、ここは穏便にいこうよ」
「あなたがそう言うなら、とりあえず、今は……」
不本意ではあるが、アンジェラも見ていることだし、あのような下賤の輩と同じレベルで張り合っても仕方がない。ここは、大きく息を吸い込んで、我慢、我慢。
ところが……
「何をモタモタしている! わしらをなめとんのか!!」
衛兵の声が高くなった。いや、むしろ怒号に近い。でも、本当に怒り出したいのは、わたしの方だ。繰り返すようだけど、そもそも、「モタモタしている」のは、あんたたちだろう。
プチドラは、わたしの肩に飛び乗り、なだめるように耳元でささやく。
「マスター、おさえて、おさえて……」
わたしは、内心では相当に腹を立てながら、しかし顔には出さず、プチドラを抱いてアンジェラを連れて、3人の衛兵の前に出た。
衛兵たちは、偉そうにふんぞり返って、
「ようやく来やがったか、と思ったら…… なんだ、子供か」
「いや、子供だからといって油断はできんぞ。子供を使ったテロということも考えられる」
などと、いきなり、3人で顔を見合わせ、ヒソヒソ話を始めた。一体、なんなんだか……
のみならず、衛兵たちの話はなかなか終わらなかった。こんなことに、いつまでもお付き合いする義務も義理もないはずなので、
「あの~」
「なんだ!? 我々は重要な案件につき、意見交換をしているのだぞ!!」
わたしは無言で、通行証と南方大要塞への訪問申請書を衛兵に差し出した。衛兵たちは、通行証と訪問申請書を手に取り、いぶかしげに目を通した。書類上は、興行のために南方大要塞に来た旅芸人の姉妹ということで、何も問題はないはず。
すると、衛兵(のうち、ひとり)は、意地悪そうにニヤリとして、
「なになに、旅芸人だって? だったら、ここで芸のひとつでも披露してもらおうか」
あらら……、いきなり芸を見せろとは。でも、わたしとアンジェラは、書類上は旅芸人だから、無茶な要求とは言えないが……




