検問所のような
とりあえず南方大要塞の入り口(城門)付近まで行ってみると、鋭い目つきをした衛兵が3人でひと組になって、「おまえは何者だ」とか、「訪問の目的はなんだ」とか、まるで糾問するような調子で根掘り葉掘り質問していた。そこでは、通行証に不備があったのか、受け答えがマズかったのか知らないが、衛兵から「バカヤロウ」などと怒鳴られ、ため息をついて、来た道を引き返す行商人もいる。わたしの場合は、(いざとなれば)貴族の身分を明かしてという裏技も使えそうだけど、一般人が城門を通過するのは容易ではなさそうだ。
プチドラは、わたしを見上げ、
「マスター、どうするの?」
「そうね、困ったときは強行突破」
すると、プチドラは「えっ!?」と、驚いたように、大きな口を開けた。
「今のは冗談よ。とりあえず、誰かから通行証を盗んで……、いえ、拝借してきてよ」
プチドラは「分かった」とうなずき、パッとその姿を消した。姿を見えなくする魔法は久しぶりだ。
アンジェラは、わたしの腕をつかみ、
「お姉さま、今のは?」
「あなたはまだ知らなかったわね。プチドラは、自分の姿を他人から見えないようにできるのよ」
ところが、アンジェラは、ややうつむいて、言いにくそうに、
「いえ、そうではなくって、その……、『盗む』のは、やっぱり、どうかと……」
プチドラの魔法ではなくて、そっちですか……
「だから、『盗む』のではなくて、『一時的に拝借する』だけよ。それに、所有権という概念は、ブルジョア的害毒に染まってるから不潔なの。王者たるものは、そんな細かいこと、気にしてはいけないわ」
アンジェラは、納得しているわけではなさそうだけど、一応、「うん」とうなずいた。
しばらく待っていると、プチドラが文字どおり姿を現し、口に書類とペンをくわえて戻ってきた。
「おかえり、プチドラ。うまくいったようね」
「この程度はね。でも、問題は、ここからだよ」
プチドラが持ってきたのは、(誰かさんの)通行証と南方大要塞への訪問申請書、それぞれ2部ずつ(わたしとアンジェラの分)。通行証とは、そもそも、町への出入り及び街中の通行の自由を証明するための書面だろう。なぜ、通行証に加えて訪問申請書まで必要になるのかよく分からないが、ここはこういうところなのだろう。
わたしは、アンジェラから見えないようにしながら、プチドラの(魔法の)助けも借りて、通行証や訪問申請書を変造した(ストーリー的には、わたしとアンジェラが姉妹の旅芸人で、興行のために南方大要塞に来たということになっている)。果たして、うまくいくかどうか。