行き先は南方
隻眼の黒龍の背中から地上を見ると、屋敷の周辺には、パターソンの予想どおり、重武装の騎士と従者がたむろしていた。連中は上空を見上げ、何やら大声で怒鳴っているが、いくら騒いでも無駄。空中まで追って来られるはずがない。
もし、連中が怒って屋敷に押しかけてきた場合には、パターソンが適当にあしらうだろう。一応、問題として残るのは、帝国宰相への申し開きだけ。でも、正式に召喚状が出たわけでもないし、ほとぼりが冷めた頃に、みやげを持って宰相に挨拶に行くことにしよう。
帝都を出てしばらくすると、辺りはだんだん暗くなっていった。
隻眼の黒龍は、疲れた顔をわたしに向け、
「マスター、これからどうする?」
「うーん、どうしようか……」
勢いで帝都を飛び出してきたものの、今後のことなど、全然考えてなかった。
「お姉様……」
アンジェラも不安げにわたしを見上げた。そのうちに、日は完全に暮れるだろう。いつまでもグズグズしていられない。こんな場合は、ウソでもいいから、とりあえず行き先を決めなければ。
さしあたり、思いつくものといえば……
「そうね、じゃあ、南方に行きましょうか」
「南方!?」
隻眼の黒龍は、呆気にとられたように、大きな口を開けた。そして、ひと呼吸置き、
「マスター、まさかとは思うけど…… もしかして、ゴールデンフロッグを探す気になったとか?」
「本気で『探す気になった』わけじゃないけど、なんだか気になるわ。謎を謎のまま残すのはスッキリしないし、『見つかればラッキー』くらいの軽いノリで行きましょう」
「マスター、簡単に言うけど、現実は、そんなに簡単なものではないと思うよ」
隻眼の黒龍は、あまり気乗りがしないようだ。
「アンジェラ、あなたはどう? ゴールデンフロッグの正体を確かめたいとは、思わないかしら。ああ、そうだ、あなたにはまだ、詳しく話していなかったっけ?」
「わたしですか。えーと、えーと……」
話を振られたアンジェラは、予想外だったのか、少しの間、隻眼の黒龍の背中であたふたしていたが、程なくして、気を落ち着けると、
「よく分かりませんが、後学のために、南方を見学するのもよいと思います」
「だったら決まりね。今回は、南方の実地調査をして、見聞を広めることにしましょう」
なぜ『決まり』なのかはともかく、結論的には、行き先は南方、目的はゴールデンフロッグに決定。隻眼の黒龍は、しぶしぶ頭を南に向けた。
果たしてゴールデンフロッグが見つかるかどうか、それは分からない。客観的に見て、可能性は限りなくゼロに近いだろう。でも、万が一、見つかったとすれば……、その時は、帝国宰相に高く売りつけてやろう。