監視役
パーシュ=カーニス評議員のおかげで、ようやく話がつながってきた。帝国宰相は大いに困ったことだろう。この前に宰相のところから早々に引き揚げたのは、正解だった。長居していれば、宰相からその難題を押しつけられていたかもしれない。
でも、腑に落ちないことがひとつ。パーシュ=カーニス評議員の話によれば、困っているのは帝国宰相で、評議員自身には関係がないはず。ならば、なぜ、わざわざ帝都大図書館に出向いて、ゴールデンフロッグやトードウォリアーのことを調べようとするのだろう。
「ああ、そのことですか。困ったことというのは、すなわち、『あんなことを言わなければよかった』ということです。今更後悔しても遅いのですが。そのゴールデンフロッグ探しに、この私が随行を命じられましてね。『手助けは絶対にしてはいけない、しかし、身体や生命に危険が及ぶような場合は例外とする』、ということでね」
パターソンが言ってた魔法アカデミーの監視役とは、パーシュ=カーニス評議員らしい。本当に面倒な役割を押しつけられたものだ(なお、同情はするが、彼に代わってその役割を引き受けようとは思わない)。
「しょうがないので、とりあえず図書館でゴールデンフロッグについて調べてみようと思ったわけです」
パーシュ=カーニス評議員は、しかし、「はっはっはっはっはっ」と、まるで他人事のように、大きな声を出して笑った。
そして、評議員はひとしきり笑い終わると、ペコリと頭を下げ、
「それでは、私はこれで、失礼します」
「あら? 調べものではなかったのですか。それとも、わたしたちがいては、邪魔?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、笑いすぎたみたいでね。今日は調べものをするという気分ではなくなってしまったのです。近々、気が向いたときにでも、また来ますよ」
パーシュ=カーニス評議員は、「はっはっはっ」と笑いながら去っていった。飄々としてマイペースで、やはり、なんだかよく分からない人だ。
閲覧室に残ったわたしたちは、その日の夕方まで、頑張って調べてみたが、結局、役に立ちそうな情報はまったく得られなかった。プチドラは、グッタリと机に横たわり、疲れた声で、
「ダメだね。トードウォリアーの領域といえば、もともと、ほとんど前人未踏の秘境地帯だから、記録がほとんど残っていないんだよ」
ないものなら仕方がない。これ以上調べても、時間を空費するばかりだろう。
「アンジェラ、帰るわよ」
わたしはアンジェラを呼んだ。しかし、返事がない。どこが面白いのか、目を皿にして、蔵書目録に熱中している。
そこで、わたしは、ふと、思い立って、
「えい!」
「あっ、痛い!」
ちなみに今のは、ツインテールを左右に引っ張られたアンジェラの悲鳴。




