ここだけの話
わたしは何食わぬ顔で、
「ゴールデンフロッグとトードウォリアーですか。パーシュ=カーニス評議員は、どうして、そんな、なんだかわけの分からないものをお調べですか?」
「実は……え~っと、ああ、これは秘密だったっけ。でも、『ここだけの話』なら、いいかなあ……」
パーシュ=カーニス評議員は、腕を組んで少し考えた上で、人目をはばかるように前かがみになって、
「では、差し支えのない範囲で、少しだけお教えしましょう」
と、ニヤリ。秘密だとかなんとか言ってる割に、本心としては、話したくて仕方がないのだろう。
「実を言えば、これ、自業自得なのです。次期皇帝選出委員会の会議の場で、つい、馬鹿なことを言っちまいましてね……」
話によれば、パーシュ=カーニス評議員も次期皇帝選出委員会のメンバーに選ばれており、評議員の言葉を借りれば「適当に出席して、適当に発言していた」ところ、その「適当」が、あだになったとのこと。
すなわち、次期皇帝が、(帝国宰相の意を受けた)ツンドラ候の推薦した人物で決まりかけていた時に、ツンドラ候がバイソン市で変質者として拘留されたことから、「変質者の推挙した人物を皇帝として戴くのはどうか」という声が上がり、会議はグダグダになって収拾がつかなくなった。その際、パーシュ=カーニス評議員は帝国宰相に発言を求められ……
「それで、なんと答えたのですか?」
「もっと当たり障りのないことを言っておけばよかったのですがね。魔が差したとしか、言い様がありませんな。つまり、『帝位とは、本質的には天命により定まるものであり、臣下が定めるべきものではない。臣下としては、その人に天命が降ったかどうかを見るべく、次期皇帝候補者に試練を課すのみ』などと、軽率なことをね」
パーシュ=カーニス評議員は苦笑い。評議員は、ひと呼吸置くと、さらに言葉を続け、
「それに、その『試練』を簡単なものにしておけばよかったのですが、つい、調子で、『帝国南部の辺境、リザードマンの領域よりさらに南に、トードウォリアーの支配する地域があるという。その地に存在すると言われているゴールデンフロッグ、それを持ち帰ってもらおうではないか。無事に任務が達成できれば、これはすなわち、天命が降ったということである』と……」
パーシュ=カーニス評議員の発言が終わると、一瞬、場は静まりかえり、すぐに、アート公、ウェストゲート公、サムストック公など、類帝国宰相に反対する人々から歓声が上がった。「もともと都市伝説のような話だから、ゴールデンフロッグを持ち帰ることなどできるわけがない」と踏んだのだろう。これはもちろん、帝国宰相にとっては受け入れられる話ではない。しかし、味方のツンドラ候が不祥事を起こしたという弱みもあり、政治的に中立な魔法アカデミー評議員の発言でもあることから、帝国宰相としても、認めざるを得なかったらしい。
「その時の帝国宰相の顔といったら……」
パーシュ=カーニス評議員は口を押さえ、必死になって、こみ上げてくる笑いを抑えていた。