都市伝説か?
パーシュ=カーニス評議員は、相変わらず軽いノリで、
「調べものは、やはり、帝都大図書館が一番ですな。帝国建国以来の知識が詰め込まれているのですから。ところで、そちらの可愛いお嬢さんは、伯爵様の連れですかな?」
「そうです」
わたしは極めて簡潔に答えた。「それ以上でも、それ以下でもない」と付け加えたくなるところだけど、余計なことを言って、要らぬ詮索をされては面倒なことになる。
パーシュ=カーニス評議員は、少しの間、首を左右に動かして、わたしとアンジェラを交互に眺めていたが、突然、何かを思い出したように、ポンと手をたたき、
「そういえば、ウェルシー伯、あなたは確か……ツンドラ候とふたりで出奔されたという話を耳にしたが、この図書館で、こうして調べものをしておられるということは……、どういうことだろう、私の聞き違いだったかな?」
気付くのが遅すぎるような感もあるが、パーシュ=カーニス評議員は、自分の興味のあること以外、まったく関知しないという、「あなたはあなた、わたしはわたし」タイプの人なのだろう。
「聞き違いかもしれませんし、耳にした話自体が誤りだったかもしれません」
パーシュ=カーニス評議員は、「なるほど」と、何度かうなずいた。この人は、頭が良さそうな割に、意外と抜けているところがあるのかもしれない。
「それはさておき、パーシュ=カーニス評議員の調べものとは、どのようなものでしょうか」
「ちょっとしたものですが、なかなか面倒でもありましてね。ああ、そうだ。ウェルシー伯は御存知ですか? 南方トカゲ王国より南のトードウォリアーの支配する領域に、ゴールデンフロッグなるものが存在するとか……」
わたしはギョッと、飛び上がりそうになった。御都合主義に過ぎるという点はさておき、パーシュ=カーニス評議員も、わたしと同じものを調べていたとは……
わたしは何も知らないフリをして(ついでにボケをかましつつ)、
「なんですか、その、ゴールデンドラッグとか、トードウォリアーとか……」
「いえ、『ゴールデンドラッグ』ではなく『ゴールデンフロッグ』、すなわち、その意味するところを分かりやすく表現すれば、『黄金の蛙』です」
パーシュ=カーニス評議員は、几帳面に訂正した上で、
「生物か無生物かは不明ですが、そのゴールデンフロッグが、トードウォリアーの支配する領域に存在するという伝説があるのですよ」
「伝説ですか……」
「そうです。尤も、『いわゆる』か『単なる』かは別にして『都市伝説』の類かもしれませんがね。ちなみに、トードウォリアーとは、カエル型のヒューマノイドのことで、一般的には、リザードマンよりも、さらに劣った種族とみなされております」
パーシュ=カーニス評議員は、「ハッハッハッ」と朗らかに、というか、まるで他人事のように笑った。彼によれば、出典や根拠は不明だが、帝国南部を中心に、そのような話が伝わっているらしい。