閲覧室
閲覧室はテニスコート2面分程度のスペースで、机と椅子が規則正しく並べられており、向こう側に設けられたカウンターには、数名の職員が配されていた。職員は、あくびをしたり居眠りをしたりで、いかにもやる気なさげ。閲覧したい旨を告げると、職員は面倒くさそうに、百科事典のように分厚い蔵書目録を3冊取り出した。「その中から適当に読みたい本を選んで下さい」とのこと。この前に来たときより、職員の質が落ちているような気がしないではない。
「さあ、始めましょうか」
わたしは椅子に座り、蔵書目録を広げた。でも、視線が目録の上をさまようばかりで、サッパリ進まない。ゴールデンフロッグとかトードウォリアーそのものが書かれた本はなさそうだから、それらしい本を1冊ずつ当たっていくしかない。でも、どの本が「それらしい本」なのか、見当もつかない。
アンジェラは怪訝な顔でわたしを見上げ、
「お姉様?」
「あら、アンジェラ、ほったらかしにしてごめんなさい。そうね、とりあえず、読みたい本を探しなさい。借りてきてあげるから」
蔵書目録を1冊手渡すと、アンジェラは興味で目を輝かせ、頁をめくり始めた。本質的に怠け者のわたしには理解しがたいけど、「人は、生まれつき、知ることを求める」ということはウソではないかもしれない。
蔵書目録に没頭しているアンジェラの隣で、わたしは、
「う~ん、困った……」
と、早い話が、お手上げ状態だった。ゴールデンフロッグやトードウォリアーのことが書かれている可能性が少しでもありそうなら閲覧請求して、とにかく、数をこなさなければならないという非効率的な作業。わたしの最も苦手とするところだ。のみならず、「可能性が少しでもありそう」かどうかさえ、よく分からない。
「こんな場合は……、プチドラ、お願い」
わたしはプチドラに、残った蔵書目録を押しつけた。プチドラは、あからさまに不快感を示しながら、それでも、しぶしぶと頁をめくり始めた。プチドラが調べてくれるなら、わたしよりも、多少、マシだろう。ただ、あまり多くの期待はできないと思う。
しばらくすると、突然、閲覧室の扉が開き、男がひとり、入ってきた。その男は、「ほぉ」と驚いたような声を上げ、
「奇遇ですな、ウェルシー伯。今日は図書館で勉学に励んでおられるのですかな?」
よく目立つ白いローブを着たその男は、今更言うまでもないかもしれないが、魔法アカデミー評議員パーシュ=カーニスだった。
「奇遇ですね。わたしはちょっとした調べものですが、パーシュ=カーニス評議員は、図書館に何用で?」
「それはますます奇遇ですな。実は、私も調べものをしようと思いましてね」
この人は、いつものことながら飄々として、一体、何を考えているのやら。