魔法の球体
わたしたちを収容した魔法の球体は、重力に関係なくフワフワと、まるで本物のシャボン玉のように大空に上っていった。眼下に広がる湖の水面には巨大なカエルが仰向けになって浮かんでいて、その腹の上では、取り残されたリザードマンたちが、一様に怪訝な表情で(と思われる。表情を読めないので断定できないが)、わたしたちを見上げている。
でも、ダーク・エルフたちは魔法の球体の中で、当然と言えば当然だけど、「リザードマンがどうなろうが、関係ありません」といった雰囲気で、これからどんなことが起こるのか、想像を巡らせているようだ。
クラウディアは、何が楽しいことが待っているかのように、ニコニコとして、
「いよいよ『とんでもないこと』が起こるのかしら。カトリーナさん、『金色の光』って、なんだと思います? もしかすると、わたしたちもみんな、滅び去ってしまったりして……」
「わたしたちも? リザードマンだけならまだしも……、わたしたちも含めてでは、困るわね」
わたし的には、この魔法の球体の中にいて本当に大丈夫なのか、つまり、球体の強度が気になってたりする(球面は薄い膜にしか見えない)。
このことを察したのか、ガイウスは、わたしの肩をポンとたたき、
「どうしたのかな? 顔色が良くないようだが…… しかし、心配することはない。この魔法の球体は、フワフワと頼りなさそうに見えるけど、破れたり割れたりすることはないし、強力な魔法の攻撃にも十分に耐えられるよ。もちろん、定員オーバーでなければ、墜落することもない」
ガイウスがそう言うなら…… 多分、大丈夫なのだろう。そういうことにしておこう。
魔法の球体は、どんどんと高度を上げていった。眼下に広がっていた湖は、みるみるうちに、小さくなっていく。今や、巨大なカエルは米粒くらいになり、リザードマンは、小さくなりすぎて判別できないくらい。空はますます青く澄み渡り、飛行機雲のような白っぽいスジがいくつも。やがて、そのスジが地上に達し……
「きゃっ!!」
アンジェラが悲鳴を上げ、わたしにしがみついた。でも、そのわたしもバランスを崩し、そのまま、ふたりして転倒。すなわち、魔法の球体が不意にガクガクと激しく揺れたので、立っていられなかったということ。周りにいるダーク・エルフを見ると、同じように、倒れたり、しゃがみこんだりしている。
ガイウスは、「よいしょ」と身を起こすと、落ち着いた声で、
「大丈夫だ。魔法の球体自体には損傷はない。ただ単に、この球体が大きく揺れた。その理由までは分からないが、つまり、そういうことだ」
一体、なんなんだか……
その時、クラウディアは、不思議そうに地上を指さし、
「あの大きな、マッシュルームみたいな…… 今まで、ありましたっけ?」
見ると、地上の数カ所から、モクモクとキノコのような形をした雲が立ち上がっている。




