村が消えた日(1)
師匠と出合ったのは11年前だ、その時俺は酷く死んだ目をしていたと師匠は言っていた。
俺がその時のことを覚えているかと聞かれたら、そりゃもちろんと答えるだろう。
あの日は空気が冷たくて雲一つなく晴れ渡った矛盾だらけの天気だった。
そんな事を気にも止めずいつものように教会で祈りを捧げ終わり帰ろうと扉を開けた時だった。
晴れ渡った空の下は汚れきっていた。
羊飼のジー二は胸にナイフが突き立てられ、臓物を地面に撒き散らしていた。
その横で牧羊犬のリドが臓物の臭いを嗅いでいる。
「お…おい、ジー二…これ、なんだよ。リドやめろ…離れろ!!!!」
別の所では両腕を捥がれた人が胸にナイフを突き刺されている。
村の人たちが見るも無残な殺され方をしている。
生きている人がどこにも見当たらない。
人は思いもよらない事があるとパニックに陥る。
それがあの時の俺だ。
「どうすればいいんだ…。そうだ、教会はまだ何人かいた筈だ…。」
後ろを振り返った。あの時はその異変に気付けなかった。いや、気づく程の余裕が無かった。
閉めた覚えのない扉に手を掛け勢いよく開けた。
最初に目に入ったのは死体。
その次も死体。そして、
「あら…?一人だけ?そうか…。そうですよね…。一人残しておく方が面白いですものね。」
独り言を言いながら笑みを浮かべたシスターを見つけた。
その右手にはナイフが握られていた。
「シスター?…そのナイフは…。それは…。」
「あぁ、これですか?大丈夫ですよ。貴方に使うものじゃないですから、安心してください。」
俺は足を一歩、また一歩と引いて行った。
「あらあら、逃げないで下さい。サガミ君。大丈夫、貴方には神の御加護ついています。貴方は死なない。死なずに済むの。死なない代わりと言ってはなんですけど、私の最後、見ていって下さいませんか?」
そう言いながらシスターはナイフを首に当てた。
「シスター!!やめてくれ!」
引いていた足を大急ぎで前に出し、シスターの元へ走る。
「ふふ、残念でした。私で最後です。」
その言葉を最後にシスターの首からは血が吹き出しゆっくりと体が傾いていった。