花屋の少女
不思議な子だった。思い返せばこの辺りじゃ見ないような服を着ていて、不思議な眼の色。まぁこの街はそんなの当たり前なんだけど。それにしてもどうしてお店が開くってわかったんだろう。
そんな事を考えていたら、お店の方から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「ニアナーー店番お願いしてもいいー???」
お店から母さん出てきながら言った。
「いいよー。母さんどこか行くの?」
「ちょっと用事よ。それじゃあ一週間くらい帰らないからお店よろしくね。」
「え、また!?ちょっと母さん……!!!」
母さんは手をひらひら振りながら街の方へ歩いて行った。
母さんは1ヶ月に一回のペースで家を空ける。多分、お得意様の為に花を持って行ったりしてるんだろう。そうだと思いたい。
実際のところはよくわからないし、わかりたくもない。
たまに訪れる母への客はそんなに好きじゃない。絶対に花なんか買っていかない。母さんがなにを売ってるかなんて知らないし。薄気味悪い気がして知りたくもない。別に母さんが嫌いな訳じゃない。むしろ大好きだ。だけど、母さんが裏でやってることなんて知りたくない。
なんとなく怖いから嫌だ。
「あのーー…。」
「えっ!あ、ごめんなさい…何かお探しですか?」
目の前には、小さな女の子がオドオドした様子で立っていた。
「いや、そういうわけじゃなくって…お姉さんがすごい怖い顔してたから…。そのなんて言うか…。」
「え…?」
私、そんな怖い顔してた?そんな…。
「き、きれーなお花達…が…すっごい怖がってるし…心配してて…その…えーっと…あの…その…お花が………。」
不思議な事言う子だなぁ。
「…お花が?」
「お花が…お姉さんの事心配そうだから…。そんな…そんな顔しないで笑顔で居てあげて下さい……!!!!」
「あ、えっと私、そんなに怖い顔してた?」
「し、してました……。」
女の子の声が徐々にフェードアウトしていった。
「そっか。ごめんね、通りすがりでそんな怖い顔見ちゃったら怖いよね。」
「い、いえ!そんな事ないです…ただ花が悲しそうだったから……。」
「花が悲しそうだったかーそっかそっか。ありがとうね。」
「はい…いきなり変な事言っちゃって…そのごめんなさい。」
そう言って女の子はゆっくり方向転換をしていた。
「あ!ちょっと待って…!」
私はショウケースから髪飾りを取り出して少女に渡した。
「髪飾り…?ですか?」
「怖がらせちゃったお詫びにこの髪飾りあげる!私が作った中で一番出来がいい子なの。」
「これ、お姉さんが作ったんですか…?すごく、可愛いですね。花も喜んでます…。」
さっきまでオドオドしていた少女は微笑みながら言った。
「そうだよ。そうやって言ってもらえると嬉しいな。花で何か作るのが好きでよく作ってるの。よかったらまたおいで?」
「そう…なんですね。ダリアの花…喜んでます。これ大事にしますね。また絶対に…きます…!それじゃあ……さようなら。」
少女はもう一度微笑み去っていった。
不思議な子だなぁ。
あんなに小さい子なのに花の種類ダリアってわかったのすごい。
花が好きなのかな。きっとそうなんだろうな。
にしても、今日はあんまお客さんが来ない。いつもならもう少しは来てもいいのに。天気が少し悪いからかな。空は少し曇ってるし。
まあ、花屋なんてそんなもんか。あんまり深く考えても意味ないしね。新しい髪飾りでも作るかな。