時の神様
時計の針が指す方向は全て違う。時計の針が重なり針が同じ場所を指した時それは滅びる時。それはまるで、人の一生を指すかのようにゆっくり動いている。不思議なもので針は、運命に従い動いている。まるで、人の最後を知るかのように。ゆっくり確実に時を刻んでいく。そしていつか、その針は動くのをやめる。これは誰も逆らう事の出来ない時間の流れ。戻す事も速めることも許されない。そんな中人間は生きていく。人間は、ね。
ギリシャ神話に出てくる創作された神、時の神クロノス。クロノスはさっき文字にした通り時の神だ。時を自由に操る事のできる唯一の神。時を戻す事だって速める事だって出来る。だが、彼はそれしか出来ない。彼自身が時を変えて何かをする事は出来ない。それは彼自身が決めた事であり、誰もそれを変えられない。そして彼自身の時は戻す事も速める事も出来ない。これも彼が決めた縛りだ。世の中には、規則やルールがあり自由がある。それは、決め事が無くては生まれないもの。クロノスの力も一緒だ。縛りが無ければ、その力は生まれない。
プルノワール街に一際目立つ大きな塔がある。そこの塔では、若い男が二人時計屋を営んでいた。そこには数多く多種多様な時計が置いてある。客からの評判がとても良く遠方から訪ねてくる客も多いという。だが、店を開いている時間がとても不定期な店だった。1日1時間だけしか営業していなかったり、週に一度だけしか店を開けなかったり、ある時は1ヶ月以上店を開けないという事もあった。遠方から来る客は店に入れず帰るという者が大半を占めていた。
春の刻24日
私の店の向かいにある時計屋の前で小さな子供が店を開くのをずっと待っていた。その子はご飯も食べずに何日経っても時計屋の前を動こうとしないでただ、店が開くのを待っている。余りにもずっと居るので私はその子に話し掛けに行った。
「ここの時計屋の店主は、気まぐれでね。店が不定期に開らくのよ。この前店を開いてたのなんて1ヶ月前だわ。この調子だと当分は店を開かないよ。何も飲まず食わずでしょう。大人しく家におかえり。」
それを聞いた子供は首を少し傾げてから言った。
「帰らない待つ。それに気まぐれなんじゃない忙しいだけ。もう少ししたらお店開くはず。だから、帰らない。」
「不思議な事言うんだね。なんでお店が開くってわか……。」
カチャッ…キィ…
私が言いかけた時、扉の方から鍵を開ける音がした。
「え?なんで…。」
「ほら、言ったでしょ?じゃあねっ!花屋のお姉さん。」
子供は立ち上がってからニコッと笑うと手を振って扉の中に消えて行った。