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第『7』話


「慶次君おはよ♡朝よ朝食は和食?洋食?それとわ・た・し?」

「……雪姉おはよ…パンで頼むよ…」


 平日は雪江が家の事を全て行ってくれる。

最初は遠慮していたが「これが私の仕事!」と言い切られては何も言えなかった。


「お任せ〜……ねぇ…何かあったの?」


 雪江は急に近づいてくると慶次の両頬を掴みその瞳を覗き込んだ。

明るく振る舞う彼女だが こういった鋭い部分も持っていた。


「…少し夢見が悪かった……」


 そう言い切る前にその豊かな胸に抱かれていた。


「大丈夫よ…お姉ちゃんがついているわ…」


 その言葉と優しい温もりに先ほど感じていた感情は霧散していた。

その後なかなか降りてこない2人を探して部屋にやってきた栞に怒られた。








 しかし無情にも時間は進んでしまう……

不安を抱えた取引先訪問が刻一刻と近づいてくるのだ。


「おはよう先輩 今日も素敵な朝だな」

「…おはよう 無駄に爽やかだな…聞いてるとは思うが今日は午後から取引先で商談に伺うから…」

「そうか…任してくれ!こう見えても交渉は得意なので」


 ……交渉と言うよりも権力の力だろ……







「ああ我孫子さんご無沙汰してます…今日はよろしくお願いします。」


 そう言って現れたのは取引先の佐々木さんだった。

彼とは数回商談を行った中で温厚で勤勉な性格の男性だった。


「…今回は部長も同席されますので……」


 佐々木さんの表情が硬い……ええ…わかっていますとも佐々木さん!

今までの商談で部長が同席したことなど一度も無いのだから

兼光狙いなのはよーく理解していますとも。




「これはこれは!ようこそ兼光さん!」


 部長はまるで時代劇の様な揉み手で越後屋のような媚び具合で迎えてくれた。


「…お初にお目に…」


 折角なので名刺を差し出したが押しのけられて兼光をエスコートされた。


「……」

「我孫子さんすいません!すいません!」


 佐々木さんがこれでもかと謝り倒してくるのが心苦しい…

まあ部長にしてみればこんな無名のヒラリーマンよりもビッグネームの兼光に

尻尾を振りたい気持ちは良くわかる。

なのでこの際この部長の行動は大目に見る事にしよう。


「ああ…まあ今回はよろしく頼むぞ」

「ええ!ええ!お任せください!」


 もはやそこには営業の欠片も存在しなかった…ただの権力による蹂躙だった。

折角の企画書もろくに目を通さないまま契約が交わされて行く…

佐々木さんの顔色がどんどん悪くなっていく…

いやうちの会社にとってはそりゃ願ったりだけど…明らかなコストと予算オーバーだよな…佐々木さん倒れちゃうよ。


「おい!契約が取れたぞ!簡単だったな!」

「流石でございますお坊ちゃま!おい若造!早く書類をまとめんか!」


 なんでセバスまで来てんのかな?お前部外者だろ…

あ…ここ最近の仕事とストレスで…魔力の発散もしてなかったからもう我慢の限界だ。

慶次は立ち上がると企画書を丸めて兼光と部長とついでにセバスの頭を気持ちの良い音で叩いた。


「……な…な…貴様…何を…」

「あ?何をじゃねえよ…お前何様だよ?一体ここに何しに来てんだよ」


 突然の事に狼狽する部長に冷ややかな目線と言葉で返した。

そして兼光に向き直ると追撃の一発を叩き込んだ。


「それとお前もここに何しに来たのか思い出せよ…お前の接待じゃねんだよ」

「え…あ…」

「き…貴様!坊っちゃまに狼藉を!」


 キレて立ち上がるセバスにも追撃の一撃を見舞い勢いを殺した。


「あんたも部外者なんだからいつまでついて来てんだよ?」

「わ…私はぼっちゃまの…」

「は?そんなままごとは家でやれよ…ここは会社なの!そんでこいつは社会人でただのサラリーマンなの!仕事で来てる以上はあんたはただの一般人で無関係なの…わかる?」

 

 黙り込むセバスに溜飲を下げて相手先の部長に向き直る。


「それとあんた…企画書見たのかよ?こいつのご機嫌取りでホイホイ契約してちゃんと支払えるのかよ?明らかなコストと予算のオーバーだぜ?こっちは3種類のプランで提案してるんだから検討してから返事しろよ!お前責任取れんのかよ?佐々木さんに責任なすりつけんじゃんねえぞ!」

「ぐ…ぐぐ…」


 部長は茹でた蛸のようにまっ赤になっていたがこちらが正論すぎて何も言い返せない様だ…


「それから兼光…お前は馬鹿なのか?」

「む…俺は会社の為を思って契約を…」

「だーまーらっしゃーい!!」


 再び企画書が気持ちのいい音をたてて兼光の頭部にクリティカルヒットした。


「そもそもお前はこの会社に契約を取って貰うために来たんだろ?何故挨拶も出来なければ企画の説明もしない!さらに何故そんなに偉そうなんだよ?ここは兼光でも無ければお前の関係企業でも何でもないわ!殿様ごっこがしたけりゃ家でやれ!わかったらさっさと出てけ!」


 慶次はセバスを追い出すとソファーに座り手に丸めた企画書のページを開いて部長の前に差し出した。


「おすすめはこのプランだ…素材もこちらの会社が得意とする分野だしコストも抑えてある…佐々木さんから新規事業展開の話は聞いてるけど今は時期が悪いから水面下でこのプランを同時に展開して企業の下地を強化する方が実用的だと思いますけどね…後挨拶が遅れましたが今回担当の我孫子です 以後よろしくお願いします」

「あ…ああ…」


 タコ部長は名刺を受け取ると自身の名刺を慶次に渡してきた。

どれどれ‥…「田子 八朗(たこ はちろう)」…まんまだな。


「…兼光お前も名刺交換するんだよ」

「あ…兼光です…」


 

やっと始まった企業らしい商談に満足した慶次はソファーに座り込む。

何故こんなに俺が苦労しなければならないのだろうか。


『そうだぞ!|主人主人(あるじ)をここまでコケにしおって!許すまじ!』

『そうじゃな…そこは激しく同意するぞよ』

『……有罪(ギルティ)

『ようし!存在を抹消しちゃお!!』


 何処からともなく4人の女性の不穏な発言が聞こえた。

慶次はハッとするとあたりを見回した。

周囲は時間が停止した固有結界に包まれていた。


「まて!おい前ら!出て来るなよ!来るなよ!ほんと来るなよ!」


慶次は某芸人の様なセリフを言いながら無駄なんだろうなーと半ば諦めていた。

次第に慶次の前に 炎・水・風・木葉が集まりなかなか際どい恰好の女性が4人現れた。


主人(あるじ)よ!どいつから燃やすのじゃ?』


そう発言したのは炎の精霊王『イフリーティア』その長い赤い髪の毛が毛先が青白く炎の様に揺らめいている。

その口から覗いた八重歯が彼女の攻撃的な性格を表している様に見えた。


『此処は氷漬けにしてしまうのが定番じゃろ?』


次に現れたのは水の精霊王『ウィンディーネ』その長い水色の髪からは水滴が滴り落ちており衣服は体に張り付いていてその豊満な肉体がはっきりとわかる……

はっきり言って…エロい


『………細切れに……』


 小柄で無口な発言の彼女は風の精霊王『シルフィー』布のような衣服と新緑の緑の髪が風に揺らいでいる……見た目どおりの幼女体型の彼女は悲しいくらいつるぺただった。

『……慶次今……』

「いや〜シルフィーは相変わらず可愛いな」

『………ぽっ』


その上チョロインの様だった。


『ねえねえ!それでどこに埋めちゃうの?』


最後の活発な彼女は大地の精霊王『ノーマ』母なる大地だけあって一番のムチムチボインちゃんだ。金髪のショートカットが彼女の活発さを表していた。


「お前ら出て来るなって言ったろ!しかも4人同時とか!魔力が無くなるわ!」

『でも…そんなこと言ったって…』

『慶次の事馬鹿にするんじゃもん…』

『……無能……』

『それに最近主人様に会ってなかったし』

「それでも4人同時はダメ!お前ら聖霊王だろ!?どんだけ魔力消費すると思ってんの!」

『……普通の人間ならもう干からびてる……』

「だよな!だから早く帰れ!」


 4人の覇気が薄まり途端に元気がなくなる。


『どうせポンコツ精霊王だもん……主人様のピンチだと思って…折角…ふ…ふぇええええええええええん』

『あーあ ノーマが泣いちゃった…儂もちょっと悲しくなってきたわ…』

「泣くな!ノーマ!ほら!ティアも!ディーネもそんな隅でいじけるなよ!

あああシルフィーもなんとか言ってやってくれ!」

『………死ぬ……』

「おいおい!ちょっと待て!早まるな!」


徐々に魔力を失い小さくなってゆく4人を小脇に抱えながら奮闘する慶次だったがここ最近のストレスもあって軽くキレていた。


「……やめだ……」


 そう言って4人をソファーに放り投げた。


『プギャん!主人殿!もっと優しく……!!』


 振り返り慶次を見上げたイフリーティアは戦慄した。

慶次の目が一切の興味を失った色を浮かべていた。

4人は戦慄した…前世でもこの目を見た事があるが…その後国が一つ滅んだような記憶あるのは気のせいだと思いたい。


『ノーマ!早くアレを!!』


 ディーネの声ノーマは素早く動くと慶次の頭を両手で抱え込んだ……


「む!」


 瞬間、慶次から漂っていた負の気配が霧散した。


『ほ〜ら慶次ちゃん 貴方の好きなママのおっぱいでちゅよ』

「……ママ」


 ノーマのその豊満な肉体に抱かれて 慶次は大自然の大いなる恵みを堪能していた。

仮にも彼女は大地の権化たる大精霊……その癒しのは波動は疲れ切った慶次の心と体を優しく包み込んでいた…


『流石大自然の大いなるバブみ……』

『私にもっと胸があれば…』

『……可愛い』


静止した時間の中で安らかな寝顔の慶次を四人は堪能するのであった。





「ゴホン……さてお前たち…ほどほどにしておけ」

『はーい』


 立ち直った慶次はバツの悪さから四人と目を合わせない……四人の仕返しも最低限度ではあるが認証してしまった。

逆に四人は満面の笑顔で応えた……ご主人の無防備なあんな姿は最高のご褒美であった…

今夜はご飯がうまいに違いない…




再び時が動き出した……

体内から魔力が根こそぎ持って行かれた慶次はグッタリとしていた…

佐々木さんと兼光が書類を熱心に見直している…どうやら話し合いは成功したらしい。

 相変わらずタコ部長はこちらを忌々しく睨んでいる。

この後起こる事を考えるとつい哀れみの視線をむけてしまう……成仏してくれ。




「今回は良い取引となりました…ありがとうございます」

「う…うむこちらも…ありがとう…ございました」


 爽やかな佐々木さんとどこか疲れた様な兼光がまともな挨拶をしていた。

おおっ…あのお坊ちゃんがちゃんと挨拶をしている…セバスにも見せてやりたいぜ…動画撮っとこ…

しかし今回は疲れた…思いがけなく魔力も消費したので今夜はゆっくりと過ごせそうだ…






「くそ!あの平社員め!よくもワシに恥を!!」


 慶次達が帰った後 多子部長は先程の事を思い出しさらに顔を赤くするのだった…そして突然邪な笑みを浮かべるのだった。


「わしを怒らせた事を後悔させてやるわ!!」


 机に座りスマホをポチポチと弄る……SNSに慶次達の悪評を書き込み拡散させようとしていたのだ。


『全く…このまま何もしなければ見逃してあげたのに…』


 どこからともなくそんな囁きが聞こえたと思ったら突然スマホが爆発した。


『ほんに…我が主人に害なすとは愚かな…』


 その頭上からスプリンクラーが…壊れて部長の頭に激しい水圧の水が降り注いだ…


『反省してくださ〜い』


 慌てて立ち上がった部長の足に何故か観葉植物の植木が取れ込み勢い余って窓ガラスに突っ込んだ…


『……天誅…』


 外から強風が吹き込み 室内のあらゆる書類が巻き上げられた……室内は阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


『まあ…いんたーねっと?とか言う所はラプラスが監視してるからどうせ何しても無駄なんだけどな』


 慌てふためく部長の姿を満足そうに見下ろすと4人の姿は描き消えるのだった。



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