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第『5』話


「我孫子君…午後の会議のアシスタントをお願い」

「えっ?僕ですか?」

「そうよ…ダメかしら?」

「いえ…暇してたので大丈夫です」

「では資料を取りに行きましょう」


 慶次は課長の後に続いて廊下へと向かった。

香苗の横を二人が通り過ぎてゆくのをさりげなく目で追いかけた。

同期入社の彼は他の男性社員とは違いどこか「余裕」の様なものを感じさせた。

 決して仕事が出来たりすごい特技があったりする訳では無いのだが…どこか安心感の様なものを感じさせた。


「最近、課長はよく慶次君を指名するね」

「ケイちゃんはお馬鹿さんだから由美ちゃんに教育されてるんだよっ」

「ふふっ…そんな顔で言っても説得力無いよ」


 先日までアビちゃんと呼んでいた筈なのに私が慶次君って呼ぶのを聞いてから急にケイちゃんと呼び始めた。

そんな香苗の姿をほほえましくを思いながら真由美も二人の出て行ったドアを見つめた。






「新人が配属ですか?」

「そうなの少し問題があるみたいでね前の部署でも結構手を焼いたみたいなの」


 そう言った課長は僕の手の上にまた一冊資料を載せていく...結構重いのだが『筋力増強(ストレングス)』で問題はない。

  ここ最近やたらと課長に扱き使われる……いや、別に不満な訳じゃないのだけど……


「大変ですね何かあったら言って下さい手伝いますから…」

「だから言ってるじゃないお願いね」


 ん?何か変な事を言ったのだろうか…


「はい?すいません話が見えないんですけど…」

「だからその子の教育あなたに任せようかと」


 思わず課長の顔を見つめてしまう………課長もその視線を受けて見つめ返してくる………ああ切れ長の瞳が今日も美しい……ではなくて………アカン、これマジな奴だ………


「因みに参考までに…女の子ですか?」

「残念ながら男の子よ」

「あー僕には無理ですね……かなちゃん辺りに任せたらどうですか?」

「多分あの子では無理ね」


 課長即答、そいつが余程の問題児なのか、かなちゃんの人望が無いのか……両方か……


「すいません自分で言っておきながら僕も無理だと思います」

「じゃあ、そんな訳でよろしくね」

「じゃあ何か頑張ったらご褒美くださいよ?」

「ご褒美?」

「だってそんな面倒臭い奴の面倒見るわけでしょ?可愛い女の子ならともかく野郎の面倒なんて…他のメガネメガネしてる奴らに任せたほうがいいんじゃないですか?」

「多分彼らにも無理ね」

「じゃあ...なおさら僕には無理でしょう...だからご褒美を要求します!因みに何故僕に?」

「...そうね私はあなたには期待してるんだけど?」


 来たい?気体?期待?


「だって社長をおじさん呼ばわりしたあなた位じゃないとうまく付き合えないと思うのよね」

「なんですかそれ?実は社長の関係者だったとか嫌ですよ? 」

「引き受けてくれたらそうね来週ランチにいきましょう」

「課長任せてください必ずや期待に応えてみせます」

「 そう言ってくれると思ったわ...よろしくね♡ 詳しい事はまた後で......それとこの資料持っていってくれる?」


 そう言って課長はまた一冊資料を載せて資料室から出ていった。


 





「え?ケイちゃんが担当するの?」

「ああ…どうやらそうらしい…かなちゃんを推薦したんだが…」

「ええっ!?無理無理無理無理!!私なんかに教育とか無理だよ!」

「…うん 僕もそう思った」

「でも…慶次君大丈夫なのですか?」


 今は昼食どきで香苗と真由美と連れ立って近くの喫茶店『モランボン』でランチタイム中だ。

 ここのランチメニューはうちの社員の皆さんにも好評だ。

 そんな会話中に懐のスマホが振動した……この揺れ方は…『ラプラス』か……

 スマホ画面を確認するとラプラスからメッセージが来ていた。


『昨日購入した会社の銘柄が良いので追加投資していいかにゃ?』


 電脳世界に生きる彼女は恐ろしい速度でこの世界の情報を吸収し……FXにハマった。

 エロゲばっかりインストールするので禁止したら凄く拗ねたので仕方なく株式について学ばせたら見事にその魅力に取りつかれ即日のうちに口座を開設させられてしまった。

 余りに大金は運用できないので小遣い程度でやらせているがおやつ代程度の稼ぎを出しているのでそのまま放置していた。


『許可・余り無茶はしないように』

『り・ ますたああいしてる♡』


「ちょっと!ケイちゃん聞いてるの?」


 ラプラスに返信を送ると同時に香苗に頬を引っ張られた。


「痛い痛い はいはい聞いてるよ 僕がかっこいいって話でしょ?」

「!ばっ 馬鹿じゃないの?!」


 何故か慌てた様子の香苗がさらに頬を引っ張った……地味痛いのだが……


「でも本当に大丈夫なのですか?多分その子『兼光君』だと思うですけど…」

「兼光?」

「え?兼光ってあの『兼光グループ』の御曹司ってやつでしょ?」

「?何?それ自動車屋さんか何か?」


 昔クラスメイトの兼光くんちは自転車屋さんだったな…元気かな……


「…もしかしてケイちゃん知らな…」

「あ…あ〜ああ!アレね!兼光ねうんうん昨日も行ったよ!美味かったぜ!」

「は?何言ってるの?ネット通販の『KANEMITU』の事よ?有名でしょ?他にも賃貸不動産とか 最近じゃ海外事業の買収で話題になったじゃない」


 へーそうなんか…ネットとかラプラスが常に使ってるからあんまり使う事ないんだよね

 変に使うとその事案を執念に追及されるから嫌なんだよな…なので買い物も自分の足で店に出向いて手にとって買う事が多いな。


「まぁかねみつだかよしみつだか知らないけど…会社に入るぐらいなんだから必要最低限社会人としての心構えはあるだろ?」







 と思っていた時が僕にもありましたこの目の前の生物は何なんだろう?


「おいお前いつまでぼーっとしてるんだ。今日は何をするんだ?」


 目の前の金髪オールバックが言った。

 新入社員の癖に金髪かよ…良く入社出来たな……ああ……権力か……


「お前…?あー僕の事か……一応今日は来週の会議で使うコスト削減についての提案書と得意先へのプレゼン用の資料を作ろうかなと思うが…僕一応先輩なんだが…」

「そうか…では出来たら教えてくれ…おい、今日の紅茶はイギリスか?」

「はい坊っちゃま…トレゴスナンの最高級茶葉です」


 坊っちゃまの問いに執事みたいな爺さんが答えた。

 どこのセバスチャンだよ……俺にも執事はいたんだぜ?

 まあ前世の話だけどな…


「いやいや…君も作るんだけど…」

「?お前何言ってんの?この兼光義政(かねみつよしまさ)がそんなことをする筈が無いだろ?まぁ俺が恥をかかないようにちゃんと作っておいてくれよ?」

「おお……」


 いやー凄いなぁこっちの世界には居ないと思っていたが……馬鹿貴族っているんだな。

 妙に納得して机に座るとすぐにかなちゃんが飛んできた。


「ちょっと…けいちゃん大丈夫?」

「いや大丈夫というか…素で驚いてるんだけど…」


 思わず課長の方に視線を向けてみる…すると課長は気まずそうにこちらから視線をはずす。


「あーなるほど…上からの命令じゃあどうしようもないよね……」


 物分かりの良い俺は全てを察した。

 まぁ普通の人ならこれは無理だな……

 前世で馬鹿貴族と言うものを知っている俺だからこそ納得できるのであった。

 奴らは能力があってもそれを生かそうとしない…自分が苦労せずに利益を生み出すか、権力の上に胡座をかいて下の者達を見下すかのどちらかしか存在しない。それにかけては恐ろしいほどの能力を発揮するのだ。

 自分よりも下の者に対しては神の如き振る舞いを行い、上の者に対しては腰巾着のように鬱陶しいまでのごますりを行う。

 向こうの世界もこっちの世界も権力者と言うものは……いや向こうの世界で1人だけこいつならばと言える権力者がいたな…奴は善政で王になったんだったか…元気かな……

 その後もいろいろなアプローチをしたがどうにもこの貴族様は仕事をする気が無いらしい。


「あれ?これって僕…馬鹿にされてるんじゃね?」


 そんな思いがふつふつと胸の中でくすぶり続け1日が終わる頃には周囲に鋭い視線を向ける様になっていた。


「けいちゃん……目が怖いよ〜」

「大丈夫ですか?慶次くん…」


 可愛い女子2人が俺を心配してくれる…あー癒される。


「こんな時は飲みに行こう!」

「お前が飲みたいだけだろ!こないだのように潰れるのは勘弁しろよ?」

「大丈夫だよ!今日はけいちゃんを労ってあげるからそんなに飲まないよ!」

「そうか……あーちょっと待ってろ…」


 慶次は懐からスマホを取り出して手軽いタッチで電話をかけた。


「もしもし?慶次だけど…ごめん今日ちょっと飲みに行く事になって……いいかな?いやいつも急でごめん…ほんと助かる」

「妹さんかな?」

「いや…家政婦さんっていうか…まあ家政婦さんだな」

「え?家に家政婦さんいるの?お金持ち!」

「いや…まぁちょっと知り合いの伝手でね……年頃の妹の面倒見るのはやっぱり俺1人じゃね」

「まあ話がまとまったところで早速行きましょう!」


 僕を気遣ってくれる二人に少し嬉しくなって…少し涙が出そうになった。




「ちょっと!ケイちゃん!なんで全然飲んでないのよ!なんで酔ってないのよ!私の酒が飲めないの?」

「ちょっと!かなちゃん!いつもすいません慶次くん…かなちゃん!やめて!胸さわらないで!」


 僕の感動を返して欲しいと思う程度にいつもの様に絡まれる。


「というか何なの?あの兼光って!先輩に対し敬意もないし!自分が偉いとでも思ってるの?てゆうか仕事しろよ!おい聞いてるの?けいちゃん!」

「あーまぁそれには同意するが……生まれながらの貴族なんてあんなもんだろ?と言うかそうやって怒るの僕の役割じゃね?」

「貴族?まぁ財閥の御曹司ですからねそうなのかもしれませんね…それにしても慶次くん心が寛容すぎませんか?」

「そうだよ!大体…けいちゃんもけいちゃんだよ!ズバッと言い返してさっさとクビにすればいいんだよ!」

「…僕にそんな権限ねえよ!あのな…おい?かなちゃん?」

「うぷ」

「!!かなちゃんトイレトイレ!」


 真由美が急に青くなった香苗を慌ててトイレへと連れて行く。

 静かになったところでくぴりとグラスを傾ける…アルコールが胃袋に染み渡る……が常時発動型の『自動解毒(オートアンチポイズン)』がそれを許さない。


「もし……お若いの…なかなか苦労されとるようですな」


 後ろから声がかけられた。

 視線を向けると隣にはナイスミドルなご老人が2人…ちびりと酒を交わしあっていた。

片方は細身の髭の似合うお爺様だった……ヒデヨシだな

もう片方は体格のいい笑顔の絶えない爺様だった……イエヤスでいいかな?


「あーすいませね…連れが騒いでしまって」

「いえいえかまわんよ…元気そうで可愛らしいお嬢さん方ですな…お前さんのこれか?どっちが本命なんじゃ」


 ヒデヨシはただのエロじじいだった…小指を立てるな…。


「そんなんじゃないっすよ…会社の同僚っすよ」

「なにやら新人教育に手を焼いておられる様ですな」

「はは……お恥ずかしながら…なかなか癖の強い奴が入ってきましてね……どうしたもんかと手を焼いてるんですよ」

「そんな言うことを聞かないガキはパソコンでブン殴ってから外に引きずり出せばいいんじゃねーのか?」


 見た目に依らずイエヤスはなかなかの武闘派の方のようだった。


「まぁそれもアリなんですけど…今のご時世にそんな事したら僕が社長に同じ様にされちゃいますよ…何より本人の為にならないでしょ?」

「……訳を聞いても?」

「まぁなんというか……そいつはね裕福な家庭で育ったんですよ…だから苦労を知らないんです…おそらく金で与えられる物は全て与えられてきたのでしょう……だからね苦労を知らないんですよ…まぁみんな苦労はしたくないけどね苦労して何かを成し遂げる…多分それを経験しないんじゃないかな…」


 老人たちは無言で俺の話に聞き入っていた。


「まぁね、こっちの話を聞いてくれるんでちょっとずつでも興味を持たせたらなぁと思うんですよ…僕だってこんな面倒臭い事御免なんでね、はやく代わりに仕事押し付けたいな〜って」

「ハハハなかなかの良い先輩だな」

「そんなんじゃないっすよ、美人の上司に頼まれたんでね借りを作ってお近づきになれたらなーって思ったんです」

「ワハハハハハお前さん気に入ったわ!」


 イエヤスが大笑いした。


「ケイちゃん何してんの?」

「あーかなちゃんそれ慶次くんじゃないよ!」


 香苗がヒデヨシに抱きついた。


「……もう、わし 死んでもいい」

「わ!ケイちゃんが心労でおじいさんになっちゃった!」

「おい僕は老けてもこんなエロじじいにはならないぞ!」







「さて、楽しかったよお礼にここは奢らせてもらうよ」

「いや…それは悪いっすよ」

「まぁたまには年寄りに格好つけさせてくれ」


 そう言ってヒデヨシは会計を持ってレジへと消えて行った。

あいつドサクサに紛れてかなちゃんの乳を触りやがったが…今回は見逃してやる事にする。


 帰り道タバコを吸おうとして「ファイア」と唱える…が何も点火しない。

 魔力が減った感覚はあるが……

 一応酒学んでいたのでそのせいかもな…まぁいいか。








「トム!早く!奴がくるわ!」


 後部座席のジェシーが叫んだ。


「わかってる!わかってるよ!!」


 トムは焦る気持ちを抑えて車のエンジンをかける為に懸命にキーを回した……がセルモーターが悲しく回転音を響かせた。

 せっかくの週末に友達と訪れたこのキャンプ場で覆面を被った男に襲われてこうしてジェシーと一緒に車に逃げ込んだまでは良かったのだが……


「待って!マイクよ!マイクが来たわ!無事だったのね!」


 ジェシーの隣のリンダが助手席に逃げ込んできたマイクに手を伸ばした。

 全員が無事に逃げ出せた様だ……


「急げ!トム!奴はもうすぐそこだぞ!」

「わかってるよ!焦らせないでくれ!畜生!かかれ!かかれよ!」


やがて建物の影から男が姿を表す……後部座席の女性達の息を飲む音が聞こえた。

その男は全身黒の布切れの様な衣服を纏っておりその頭にはホッケーマスクを被っていた…その手には長い獲物を握りしめ、足を引きずりながら近づいてきた。


「く…くそ!!かかれ!!」


その時目の前のボンネットの上に小さな歪みが現れた。

全員の目が釘付けになった。

やがてその小さな歪みから仄かな灯がゆらりと滾れ落ちボンネットの中に吸い込まれた……


「!」


その途端エンジンが唸りを上げた。

トムは急いでギアを入れるとアクセルを踏み込んだ。

4人の乗った車はタイヤを軋ませながら男から離れて一目散に町へ向かう道へと消え去った。


「……」


 男はそれを見送ると残念そうに肩を落とした。


「ジョイさん!」


背後からの声にジョイさんは振り向く

そこには自分と同じ(はかま)姿に剣道防具の仲間達がいた。


「どうしたんですか?練習始めましょうよ!」

「ああ…今若者が来てね…参加者かと思ったんだが……違った様だ…」


彼の名はジョイサン:ボーヒーズ 数年前までキャンプ場だったこの場所を買取剣道場をオープンさせたこのジョイサン剣道倶楽部のオーナーだ。

同じく剣道を愛する同志達の協力もあり、月に一度第二金曜日に練習を行っていた。


「そろそろ始めましょう、みんな楽しみ待ってますよ!所でなぜ今日は面でなくてホッケーマスクなんですか?」

「いや…古い防具が壊れてしまってね…人数分確保できなくてこれで代用して見たんだけど…ダメかな?」

「いや…意外に似合っていますよ?」


二人は笑いながら道場へと向かう……今日は月に一度の

『ジョイさんちの剣道日』






コロナ怖いっすね 皆さん頑張りましょう。

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