醒装コードNo.009 「少女、嫌味を返り討ちにする」
日間学園10位になり、ちょっとほくほくしてます。
読んでいただけた皆様方のおかげですね、本当に感謝しています。
今回はヴァルの回でしょうか。よろしくお願いします。
「ねえ、アキュムレートさん」
「何でしょうか?」
名前を呼ばれ、振り向いたヴァルは振り向かなければよかったと後悔した。彼女の名前を呼んだのは三人組の女子であり、それぞれが歪んだ醜い笑いをひっさげている。
「今日も【剣装】の授業、全然出来なかったね」
「ええ、そうでしたね」
授業が始まって一週間、ヴァルは須臾から【楯装】を【剣装】同等のもの……いや、【楯装】と【剣装】を一つのものとして展開する指導を受けていた。
しかしやはりというべきか、指導は難航する。正直、ヴァルよりも須臾の方が焦っていた。
須臾は責任感の高い人の分類になる。仕事を受け持つまでは愚図るが、いったん背負ったものは最後まで受け持とうとするためだ。
「恥ずかしいと思わないの?」
「ふふっ」
「余裕ぶっても意味ないのよ、この劣等生が。地球人の私たちに……あ」
何かに気づいたように、少女たちはアイコンタクトを交わす。何かをたくらんでいるなとヴァルは予測。
彼女たちは、ヴァルがどの心情で笑っているかなど知る由もない。
「そういえば、劣等生の先輩に『申請書』出したんだって?」
「劣等生同士お似合いだね~。劣等生カップルってやつ?」
「須臾先輩のことなら、そこで無双してますけど、どうかしましたか?」
ヴァルの指さした先は、校庭。そこでは、二年生の模擬決闘が行われている。【醒装能力】での決闘である。
基本的に模擬決闘の決まりは片方が戦闘不能となった場合に勝負が決まる。そして戦闘続行可能な方が残り、次の対戦相手があてがわれる状態だった。
その中で、授業が始まって二時間。休み時間すら挟まないでひたすら、連勝の駒を進めていた。
「篠竹、ちょっと休め……」
先生からストップがかかり、須臾は一旦校舎側の日陰に座り込む。勿論、彼に寄りつこうという人はいない。
ヴァルの指さしている人が誰かわかった瞬間、女子生徒三人は顔を青く変色させた。
「な、なら話しかけられるんでしょ!?」
「はい、そうですよ? 須臾せんぱーい!」
ヴァルはそう言われなくとも須臾に駆け寄る気で居たため、待ってましたと言わんばかりに走り出す。最高の笑顔で走り出したヴァルを、女子生徒三人はあっけにとられて見つめていた。
「おう、おはようヴァル」
「もうこんにちはの時間ですよ。タオルは必要でしょうか?」
「いや、汗かいてないし大丈夫だ。授業はどうだ?」
と、ここで不意に須臾は後ろからの視線に気づき、首だけを回して横目で三人の女子生徒を捉えた。
その瞬間、女子生徒三人は悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げていく。それが黄色い悲鳴ではなく、恐怖からの悲鳴であることにも須臾は気にしなかった。
「……今日から、授業が終わったら出迎えにいこうか?」
「そんなこと、申し訳ないですよ」
ヴァルは本心から、この問題に須臾を関わらせたくなかった。確かに干渉してくれれば、一瞬で問題は終結する。しかし、この問題が終結しても実際の問題は終結していないのだ。
「やっぱり、新人戦で優勝すれば万事解決です」
「……その点に関しては、本当に申し訳ない……」
「いえいえ! 須臾先輩は努力していただいていますし……。顔上げてくださいー!」
須臾の謝罪に対して、必死にヴァルは彼が悪いわけではないことを伝えた。
そもそも、須臾の母親が天才だったという可能性もある。そうなれば実に天才家族ではないか、とヴァルは須臾をうらやましそうに見つめた。
「本当に大丈夫です! ……最近、【楯装】だけで決闘はノーダメージですべて引き分けですから!」
「……それはいいのか?」
決闘は、最高でも十分で強制的に終了となる。そのときの判定は、『いかに相手にダメージを与えられたか』であり、その場合必ず引き分けになるのだ。
「いいのです! おかげで【楯装】は常に学年トップですから!」
私がこれからもしっかりすれば、きっと新人戦までには目標を実現できる、そうヴァルは思っていた。
逆に須臾は、最悪は師範生の権限を使って無理矢理優勝させるのも手だと考えていた。おそらくヴァルに嫌われてしまうだろうが、最終手段として須臾はこの数日間、規約を読み返していた。
「じゃあ、今日もいつもの場所で」
「はいっ!」
いつもの場所、とは一年生の教室がある階、階段前のことを指す。そこに授業が終わったヴァルは、駆け足で向かっていた。
「須臾先輩は……まだですね」
階段前に誰もいないことを確認して、ヴァルはそばの壁に寄りかかる。時刻は十六時半。季節は春とはいえど、あと一時間もしないうちに夕焼けが紅く空を染めるだろう。
ヴァルは、自分の手を見つめた。同時に、少し胸の奥が締め付けられるような感覚に陥った。しかし、その気持ちがなにを示しているのかヴァルには分からなかった。
「さみしいって、須臾先輩に言ったらどうなるんでしょう」
少し顔がゆるんでしまう。須臾がどんな反応を示すのか、楽しみに思えてしまう。
(一般的には冥王などと呼ばれているはずなのに……なぜこんなに彼のこと……?)
慌ててヴァルは自分の頬を叩き、元に戻そうとしたが一向に良くなることはなかった。
「……何十面相しているんだ、ヴァル」
「ひゃぅ!? ……須臾先輩、気配なかったのにいつの間に?」
声がしたほうを向くと、そこには須臾の身体があったためヴァルは飛び上がりそうになった。しかし、声の主が須臾だと認識して一安心する。顔が一気に真顔になった。
須臾はその表情が変わる様を見て不覚にも笑い声をあげてしまった。
「……須臾先輩、わらったほうがいいと思います」
「そうか?」
「はい、そのほうが何倍もイケメンです、かっこいいです」
「……そういうのは求めてない」
目つきの悪さは生まれつきで、それを悪化させたのは周りの環境である。そんな自分をかっこいいなんて思ったことはないし、それを今まで改善しようとも思っていなかったが、ヴァルの一言で、須臾は何かが変わったような気がした。
「でも、ヴァルが言うのならそうしようかなって思う」
「本当ですか!?」
聞き返してくるヴァルに、須臾は笑いかけた。たとえアンクに言われても改善しようと思わなかったことが、ヴァルという生まれて初めて興味を持った少女の言葉で自分が変わるなんて思っておらず、少し照れくさかったのだ。
「出来るだけ努力はしてみよう。さ、早く訓練を始めようか」
「はいっ。……あの、今日もいつも通り走るんです?」
「歩いていきたいというのなら、それでもかまわないが。訓練の時間が必然的になくなっていくぞ、いいのかそれで」
「あぅ、だめです」
そして二人は走り出したのだった。
御読了感謝です。
今日は13時から授業があるのですが、その前に一回更新しますね。
夜にも一回更新しようと思います。