醒装コードNo.XXX 「悠遠の醒装使い」
「と、まあ第2回悠遠戦は真の醒装使いを誕生させ、幕を閉じたらしいぞ」
小さな酒場で、店主の話を聞きながら男ははぁとため息をついた。
男の髪の毛は闇をのぞき込んだように黒く、そして目は鋭い。
「何か景品はあったのか?」
「景品か……悠遠戦は、名誉だけだと聞いたことがある。……まあ、その後はレールが敷かれているようなものらしいがな」
男は、甲冑を身にまとっていた。
髪の毛の色とは正反対に、すべてが白い。
ただ少し違うところは、背中に巨大な紋章が描かれており、それがすべて蒼で刻まれているところだろうか。
「とはいっても、第2回は地球人だったから、そうならなかったらしいが……。今頃どうしているんかね」
「さぁな……ただ、一つだけ知っていることがある」
男は席を立つと、酒の入っていた杯を返し、代金を払う。
「何を?」
「【悠遠の醒装使い】は、帰ってきた」
男の背中を店主は一瞬見やり、そして驚愕に目を疑う。
「……騎士序列2位……醒騎士様?」
しかし男は一度も振り向かず、店を出ていった。
店を出て、男が最初に思ったことは自分がいない間に話がいろいろと食い違っている、ということだった。
自分のことが、すでに本になっておりその特殊な状況や、学園での出来事が本になっていることはいい。
評論家から、いろいろと言われていたりするのは別に気にしない。
しかし、やはり話というのは尾鰭がつくものである。
「ええと……【彼女】はどこにいるのかな」
男の名前は、須臾。
10年前に、アポリュト学園最強の座を手にした男だ。
「……しゅゆ、さん?」
地図に書かれてあった場所を、須臾が訪れるとドアを開けるなり降着した一人の女性の姿があった。
10年前に、彼女を最後に視たときよりも、数段美しい姿に須臾はある一種の感動を覚えながら、彼女の名前を呼んだ。
「久しぶり、ヴァル」
甲冑にも構わず、彼女が須臾を抱きしめるまで、そう時間は掛からなかった。
そして飛び込んだからか、額にプレートをぶち当てて跳ね返るまで。
「あの、あの。何で急にいなくなったんですか」
「……話題になったら困るかと思って。……でも、ヴァルは待ってくれた、だろ?」
もちろんですよ、とヴァルキャリウスはごしごしと目をこする。
決壊しかけた涙を、必死にこらえている姿をみて初めて、須臾は罪悪感を覚えてしまった。
勿論、今まで彼女のことを思っていなかったわけではないのだが、づしてもほかの用事があったのだ。
「すまない」
「……いいんです。こうやって、戻ってくれたから」
本心だろう。
そう判断した須臾は、この世界について初めての笑顔を、自分の一番大切な人に向けたのだった。
「結婚しよう、ヴァル」
その言葉に、ヴァルが涙をこらえきれなくなったのは、言うまでもない。
結婚後も、須臾は地球と異世界の二つの世界で、多くの伝説を残してきた。
彼の異名、【悠遠の醒装使い】は。
【悠遠】だというのに【須臾】という皮肉もあって。
その名前の通り、遥か遠くの未来まで語り継がれることになる。
-完-
完結。 年内に達成できましたね。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました。
須臾たちの物語は終わりましたが、この世界は終わりません。
いつか。この世界の事は他の作品でひょこっと登場するかもしれません……と匂わせてみたり。
来年は新作も書く予定ですし、既存のものもありますのでよろしくお願いいたします!
では、またの機会に。
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