醒装コードNo.066 「対峙」
「選手、入場!」
厳かで、同時に威勢のいい声が会場に響いた。
今から、アポリュト学園での最強の座をかけた戦いが始まる、ということもあってか観客も色めき立っている。
多くの放送局が一斉にカメラを入場口に向け、大きな祭りと化している。
異世界人と地球人の交流が始まって百年ちょっと、二回目の「悠遠戦」。
その意味は、いったい何を指すのだろうか。
「まずは向かって北側! アポリュト学園2年! 生徒会会長! 【聖王】の愛漸キリの登場!」
大きな拍手に迎えられてステージに向かうのは、アステリア・レイライトに誘導されてやってきたキリだ。
その顔は固定化されたがごとく固まっており、同時に信念と決意もかたまったよう。
緑色の髪の毛は、このときを待っていたかのように心なしか輝いているようにも感じられる。
「そして南側! アポリュト学園2年! 醒装委員会会長! 【冥王】の篠竹須臾!」
進み出たのは、ヴァルキャリウス・アキュムレートに誘導された男子生徒。
こちらはずいぶんとリラックスしたような、それでいて引き締まった顔を表情をしている。
黒い髪はさらに深さを増し、その戦闘意欲の塊のような顔と同じように鋭い雰囲気を与えていた。
「……ヴァル。出会って初めての戦いと同じように、二人での勝利だからな」
「……はい」
【聖典精】から、須臾とヴァルはそれぞれ「力」を手に入れていたのだ。
彼女からその話をすることはないが。
しかし、それでも彼はこの力に出来るだけ頼らないことにしていた。
自分の力のみで、かつ。
誰かに与えられた力ではなく、自分が努力で培った能力を使う。
それでこそだと、思っていたはずだったが。
須臾にとって、今回は難しいものだと本気で思っているようだ。
「両者、前へ」
司会者の指示とともに、二人の王は前に進み出た。
「王」などと大仰な名前を付けられているが、その実力は確かにそうよばれる程度には強い。
たいていの大人なら、軽く無双出来る程度には強いだろう。
だからこそ、彼らは大仰な異名をつけられているのだ。
「一回、須臾とは本気で戦ってみたかったんだ」
司会者が審判を呼び。
審判が何度も説明されてきたルールを説明しているそばで、最初に口を開いたのはキリだった。
その目は、狂気とも呼べる恐ろしいほどの中性的な美しさと、それでいて緊張した面もち。
対して須臾は、落ち着いていながらも心の中にある戦闘意欲を驚くほどかくしきれていなかった。
「そうだな。俺もだ」
その気迫に、キリは一瞬だけだが仰け反るほど気圧されていた。
自分をウサギに例えると、相手が百獣の王と感じてしまうほどの気迫。
「俺は負けない」
須臾が、キリに暴投した言葉はそれだけだった。
キリは何かを言い返そうとしたが、すでに須臾は集中しており彼の話など聞こえていない。
「いよいよ、始まります」
厳かな声が響く。
先ほどまで沸き立っていた観客は、一斉に静まり。
すべての意識が緊張の糸となって、会場に殺到する。
「第2回悠遠戦」
悠遠戦で、準備の時間は与えられない。
試合開始から決闘であり、準備すら試合の中身となる。
「……はじめっ!」
あと短くて3話、です




