醒装コードNo.063 「医務室《medical office》」
医務室。
須臾に抱えられたレイライトは、ベッドの一つで呆けていた。
そして数秒後、やっとここが医務室だということに気づいてはぁと息をつく。
誰がここまで運んでくれたのか、疑問に思ったが答えはすぐ隣にあった。
「……冥王……」
「起きたか」
じゃあ、俺はこれで。
彼女の意識が回復したことを確認すると、彼は部屋から出ていこうとする。
のだが、その二つとなりに横たわっている少女を見て顔をしかめた。
「……リース?」
「あー、ちょっと貧血気味で」
てへ、と舌を出す少女に須臾は苦笑しつつ、彼女のからだに異常がないか確認をした。
「でも、ちゃんと試合は見てたから大丈夫」
「無理をさせた?」
「全然」
戦闘時とは別人かとレイライトが感じてしまう程度には柔らかい、そんな顔でリースの頭をゆっくりとさする須臾。
その顔を目撃してしまったレイライトは、自分に付き添ってくる男がいないことにしゅん、となる。
それに気づいたのか、須臾はもう一度リースの頭をなでると、「ちょっと人呼んでくる」と医務室の外へ出て行った。
「……」
「……」
かなり気まずい感じの顔をした二人は、直接的に出会ったのは今日が初めてである。
しかし、レイライトは愛漸キリからリースの事を聞いていたし、リースも須臾からレイライトのことを聞いていたのだ。
「……あの」
「?」
最初に口を開いたのは、リースだった。
「須臾くん、そんなに悪い人じゃないですよ」
「……ええ、今回の話を聞いている限り【冥王】なのは顔の恐ろしさだけのようです」
「……私がくるまでどんな評価だったんですか」
呆れながら、天井を見やるリース。
ほんの数週間前まで眠りについていたため、須臾の評価などがよくわかっていないのだ。
須臾は醒装委員会の会長になってから、株が大沸騰したのだから全然違うのは当たり前であるが。
「入学したての頃は、かなり荒れていましたね」
「……と、いうと?」
顔がアレなので、やっぱり絡んでいくわけですよとレイライト。
先輩方の制裁を倍返し以上で返すのが、須臾だったわけである。
「須臾くん、文句なしに強いから」
「彼は、何かやっているのです?」
「お父さまが騎士団のトップでしょう?」
そのさらっとした言い様にも、その実態にも。
レイライトは、はっとして目を見開く。
「噂って、本当だったんですか」
「私は何が噂かは知りませんが、幼馴染なので」
「あーアステリア大丈夫だった?」
ほどなくして、キリがやってきた。
須臾がもちろん呼んできたのだが、須臾の姿はそこになかった。
「お陰様で。……会長、ごめんなさい」
「ん?」
「……会長のいっていたこと、信じられなくて」
「んー、まあいいんじゃないかな」
僕が言ったことすべてが正解というわけではないよとキリ。
その二人の様子を、リースがやさしく見つめる。
「……次の試合で、決まるんですよね?」
「そうだね。僕と須臾で試合。勝った方が【悠遠の醒装使い】として語られる」
聖王と冥王。
最高の友人として最高のライバルである二人。
「まぁ、須臾と互角で戦えるのは僕くらいしかいないんだろうけどね!」




