醒装コードNo.062 「衝撃《shock》」
アステリア・レイライトは、試合が始まるとともに目を大きく見開いた。
目の前に対峙する、力なく立っていたはずの篠竹須臾展開式を唱えもせずに自分めがけて飛び込んできたからである。
……すでに【楯装】を装備している私に、何という無策っ!
そう考えたもつかの間、振りかぶった彼の両手には、すでにそれぞれ2本の剣が握られていた。
柄が理想型よりも、遙かに細い。
剣身も、理想型の2分の1程の厚さしかない。
そのため、2本持っていても1本と見間違えるのだ。
「軽量型?」
レイライトは、それをみて鼻で笑いそうになりあわててそれを押しとどめた。
なぜなら、彼は自分がもっとも強いと思っている、生徒会長よりも強いらしいのだから。
そして、彼が計4本の【剣装】を装備した本当の意味をすぐに知った。
須臾の動きというのは無駄がいっさいない。
これが模擬戦闘ではなく、実際に殺し合い立ったら最初の数撃で確実にしとめられるほどの威力を持つ一振りを、2本の【剣装】は確実に2倍以上へと増幅させていたのだ。
一撃が加えられる度に、楯が手元から離れて霧散するようなイメージがレイライトの頭をよぎる。
自分の楯をこわさんと動いているものは例を用いれば2枚の薄い板、なのに衝撃はコンクリートのかたまりをぶつけられているような感覚に陥った。
……防戦ばかりでは決して勝つことが出来ない。しかし相手は攻撃する暇すら与えてくれない。
レイライトはいったん引こうと足に力を込めたが、しかしすでにフィールドの端に追いつめられていることに気づいて絶望した。
「醒装なんていう能力は、逆転をほぼ不可能とするものだ」
須臾の発した言葉に、レイライトは答えることが出来ない。
それは紛れもない事実であり、運など関係なく実力がものをいうものということは知っていたから。
「それでも……。私が負ける理由には成らない」
「勝つという理由にも成らないだろう?」
しかも、俺はまだ本気を出していない。
須臾の言葉を聞いて、レイライトは悔し紛れに「分かってる」と発言した。
今現在、須臾はほぼ【戯れている】という領域内でしか攻撃をしていないのだ。
一度に【醒装】を複数、それも4本の【剣装】を展開しながらも、その顔には一滴の汗すら流していなかった。
対してレイライトは汗だくだ。
焦っているということもあるのかもしれない、疲労の暑い汗と、恐怖の冷たい汗が混じり合って吹き出している。
怖い。得体の知れない、人間ではない【ナニカ】を相手にしているようにいやな汗が止まらない。
恐怖心は徐々にレイライトの精神を蝕み、彼女の動きを遅くする。
それと同時に起こること、それが須臾の余裕だった。
彼は【地王】にたいしてやったように、一撃で終わらせたりしない。
あの時は単にいらついていただけなのだ、本当は戦闘という行為に対してわずかながらも楽しみを見いだせているのだから。
殺し合いを楽しむ、それはただの異常者だがこの戦闘は言うなればスポーツである。
地球上の格闘技、さらに言えばフェンシングや剣道と言った物を少々鮮やかにした、と言えばいいのだろうか。
「ただ、楽しむのに君は少々力不足だ」
低く、唸るように少年はつぶやくと、その言葉が聞こえ顔をこわばらせた少女に対して右から左へ剣を振る。
空気が二枚の【板】によって凝縮され、音速を超えた圧縮によって見えない刃として少女の楯に襲いかかった。
少女は何も言うことが出来なかった。
自分を、何もさせずに勝利してしまった少年を見つめることも出来なかった。
地面にはいつくばり、身体は恐怖に支配されて動けない。
しかし、そんな彼女に篠竹須臾は手をさしのべた。
「なんで」
何で、君はそんなに強いの?
何で、君は私に手をさしのべるの?
聞きたいことはたくさんあったが、結局少女からその続きが飛び出すことはなかった。
意識が薄れ、少女は地面に倒れ伏せる。
「……うーん」
須臾は、歓声の中困ったような顔をして彼女を抱き上げると、医務室に向かって歩みを勧めた。
残りの相手は、聖王のみ。
ラストは決まっているので、早くてこの数日間に集中更新するかもしれません。




