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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅲ 『冥王』と呼ばれた醒装使いと3人の【王】-three kings and Hades-
58/69

醒装コードNo.058 「聖典精《Ark_Kairos》」

(もうすこし、もうすこしだけ)


 キンッ。

 ヴァルの頭の中に、意味不明の声と残響感が糸を引きながら響く。


 自室に戻っていたヴァルは、いったい誰に話しかけられたんだろうと周りを見回すが、もちろんなにもあるはずがない。

 頭の中に直接響いてきた声は、しかし再度、発せられることがなかった。


 ヴァルは、音の正体がわからず。

 もう一度、須臾の部屋を訪ねようかとも思ったが、やめた。


「これいじょう、だめ」


 好きだからこそ、そんなに心配をかけたくないという気持ち。

 それは、彼女が普段守ってもらっているから、ということもあるのだろう。

 しかし、その判断は。


 最終的にどうなるのか、わかるのは神だけである。


「……うー、気持ち悪い、です」


口から、だれにあてたものでもなく言葉が漏れる。


(何か、ほしいものある?)


 また、頭の中に声。

 ヴァルは完全にパニックになりそうで、しかし何とか自分をとどめようとぐっと考えるのをやめた。


「だれ……?」

(ここよ、ここ!)


 声とともに、ヴァルの目の前に現れたのは、手乗りサイズの小さな生き物だった。

 人間とほぼ変わりなく、しかしその背中には眩いばかりの翼が生えている。

 顔は絵本で読んだような幼い顔ではなく、少なくともヴァルよりは年齢を重ねているだろう、とヴァルは一周まわって逆に冷静になりつつ推測する。


『はろぉ~?』

「ひやっ!?」


 いきなり、間延びした声が響きヴァルは思わず声を上げてしまう。

 

『力、ほしいの?』

「……どういう、ことですか?」


 訳が分からず、ヴァルは首をかしげてしまう。

 彼女の前で飛び回っている「それ」は、空中で止まると頭を下げる。


 と、同時に妙なもやがかかっていた声も、透き通ったものになった。


「あら、名乗っていなかったわね。私の名前はグレイゼス」

「は、はぁ」

「ヴァルキャリウス・アキュムレートちゃんね、これからよろしく」


 これから? とヴァルは首をかしげる。

 それもそうだ、まったくもって唐突だったのだから。


「私は、聖典精アーク・ケイロス雪那せつな

「聖典精……?」

「そ」


 訳が分からず、オウム返しのようにヴァルは『雪那』と名乗った精霊を見やる。

 ふふふ、と笑ったのは雪那だった。


「詳しい説明は、もちろんいるわよね?」

「……はぁ」


 完全に、混乱状態になったヴァルキャリウスは。

 そのまま、うしろに倒れて意識を失った。


 雪那は、ふふっと笑うと。

 その手から、白い結晶のようなものを流れ出させて手のように形を変えさせ、ヴァルに布団をかけた。


「急に出てきたのも悪かったわね。……ゆっくりおやすみなさい……」









「はぅ、申し訳ありません……」


 2時間後、目を覚ましたヴァルを待っていたのは慈悲の塊のような顔を顔に浮かべた小さな聖典精アーク・カイロスだった。


「ごめんね、急にでちゃったりして」

「いえっ、あの、お話を」

「うん、わかった」


 こうして、聖典精アーク・ケイロスの説明会が始まる。

 どこから来たのか、なんのためにヴァルの目の前で姿を現したのか、これから何をしようというのか。

 すべてを聞き終わったヴァルの顔は、幾分か落ち着いて現実を受け止めているようにも見えた。


「すみません、一つだけ」

「なに~?」

「あなたは、私にとって敵ですか? それとも」

「貴方にとっては、紛れもなき味方よ? 私がほかの人に対して味方かは保障できない」


 その言葉を聞いて、ヴァルはしばし頭を悩ませる。

 まず、彼女の頭に浮かんだのは自分が大好きだった、少年のことだった。


「……私は、誰かを傷つける力を必要としていません」

「と、いうと?」

「簡単に言えば、私はあの方の『楯』ですから。……守れればそれでいいのです」


 本当に、自己犠牲の激しい人。

 雪那はそんなことを頭の中で考えながらも、彼女をほほえましく思ってしまう。


「わかったわ」


 さて、どういう力を彼女に預けるべきなのか。

 雪那は、腕を組みながらそう考えるのだった。

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