醒装コードNo.056 「自室《room》」
「……うー」
自室に戻ったヴァルキャリウスは、若干うなりつつベッドの上を転がっていた。
いろんな考えが、自分の頭を走り抜ける中。
そんな状態でも、彼女が最初に思いうかぶのは、やはりというか須臾のことだった。
「……今日、須臾さん何やっていたんでしょう……」
ヴァルには、ホムラ・フラッシュオーバーと仲たがいするつもりは全くなく、同じ教育生であり、同じ委員会である関係として良好な関係であれば問題はなかったのだが。
どうも、それはかなわぬことらしい。
「絶対、ホムラ先輩は須臾さんのこと狙ってますよね」
口に出してしまうことで、その考えはむしろ現実味を帯びてきたような気もしてきた。
何とも言えない、違和感のような、そして同時に何か嫌悪感のようなものが、彼女を襲った。
「……嫉妬、ですか?」
自問自答。
しかし、答えは出なかった。
須臾を信頼しているからこそか、彼が自分を裏切るとは思っていないのか。
いずれにせよ、ヴァルは混乱するばかり。
「……うぅ」
じぶんがほかの人よりも劣っているのではないか、そのせいで須臾に見放されるのかもしれない、と劣等感がどうしても、ヴァルは強くなってしまう。
「でもっ、でもっ」
それでも、ヴァルは須臾を信頼し続ける。
「大丈夫、ですもん」
その根拠はどこからくるのかわからないものだったが、それでも少女は思い続ける。
「はぁ」
須臾は、ホムラと別れを告げた後自宅に戻ってため息をついた。
思ったより、何倍もホムラへの愛情が高まってしまった、と須臾は反省せざるを得ない状況になってしまう。
もともと、雰囲気最悪の状態からこちらに心酔されるほどになるまで好感度を上げたのだ。
少々の副作用は仕方ないものだと思っていたが、まさかミイラ取りがミイラになるというそんな状態になるとは須臾ですら想像はできていないだろう。
それでも、須臾は自分の信念は変わらないことを知っている。
須臾は、誰かを守りたいからこそ愛情を注ぐ。
逆に、それは絶対に代わることのない。
相手が、自分のそばから離れない限り、それが二人だろうと三人だろうと。
「大丈夫、かねぇ。俺も」
2年生になりたてだったころの信念は、変わっていないだろうか。
父親のような騎士になる、といったことは彼の中でも変わっていないだろう。
そして、彼の最終目標は別にあるのだ。
醒装使い。
そして、この世界最強の称号【久遠】の。
学園バージョンである、未だ誰にもわたっていない【悠遠】を手に入れるために。




