醒装コードNo.055 「デート2《date》」
「なんていうか、やっぱりこんな感じの場所もいいよねって」
「ん、俺はホムラとならどこでもかまわないけれども」
ホムラと須臾は、商店街の一つであるファーストフード店にきていた。
須臾はいつも通りにものを頼み、いつも通りの感覚でヴァルを相手するようにホムラにメニューを差し出す。
「う」
「どうした?」
「……ちゃんと高さあわせてくれるのね」
「ん、まあな」
須臾にとってはいつも通り、やっているのだが。
思った以上に、ホムラからの好感度はあがっていく。
「ん、これとこれで」
そうやってたのみ、須臾は金額を支払ってホムラを座席の方に案内する。
席に着いたところで、少し離れた男の集団がわざとらしく口笛を鳴らしたが、須臾は無視した。
「なんか、ごめんね? 全部払わせちゃって」
「今日はこういうことじゃなかったのか?」
う、と言葉に詰まるホムラを横目にみつつ。
「さ、食べるか」
と、須臾は手を合わせたのだった。
「おいしかった」
「まあ、ファーストフードだからな、安定してるだろう」
食後、ホムラと須臾は仲良く手をつないで商店街の中を歩いていた。
実はファーストフード店をでるとき、男数人に絡まれて一方的に須臾が無双してしまったのだが、それは別の話。
ホムラは実質、まともなデートをしたことはなかった。
だからこそ、こういうことに異常に憧れている。そして今それが叶って、ホムラの気分は最高にいい。
それをしってかしらずか、須臾は決してホムラを突き放したりはしなかった。
「ねえ、会長」
「どうした?」
なんとなく、須臾を呼びたくなって。
ホムラは、さすがにそんなことを口に出して言わなかったが、満面の笑みを浮かべて首を振る。
「会長って、ヴァルキャリウス・アキュムレートのことどうおもってるの?」
「……俺の初恋の人に似てる」
「へえ、そうなんだー」
何の気なしに聞いた言葉だったが、ホムラはショックを受けた。
それなら勝ち目はない、本当にキリが言っていた方を検討しなければいけないのかと頭を悩ませる。
「まあ、その初恋の女の子も、そろそろ編入してくるんだけどな」
「この前言ってたあの子?」
「ああ」
そう答えた須臾の顔はいかにも幸せそうで。
ホムラは、何かを言い足そうにしていたが言い出せなくなっていた。
「まあ、でもリースはリース。ホムラはホムラだしヴァルはヴァルだから、気にするな」
「気にするなっていわれても……」
ホムラは言いよどむが、須臾の目を見て次の言葉が出せない。
それほど、須臾は本気だということなのだ。
「ねえ」
「ん?」
「……会長って、強いね」
ホムラは、須臾の目を見てそうつぶやくと。
彼の腕を抱きしめて、一緒に歩き出した。
それは、何かの決意の現れなのか。
須臾はさっぱりわからなかったが、彼女を突き放すようなことはしなかった。
「俺はまだ弱いからな」
「そんなこと、ないとおもうけど」
ホムラは、須臾の言葉の意味を、わかってはいなかった。
須臾は、今もリースのことを引きずっているのだ。
だからこそ、須臾が成長をやめることはない。
「守りたい人を、ちゃんと守れるようになるまで俺は進む」
「うん」
「そのときまで、そばにいてくれるか?」
「え」
それがプロポーズのように聞こえたホムラは、顔をトマトのように赤くした。
しかし、須臾は気づいていない。
自分が、天然の人誑しだということにも気づいていなかった。




