醒装コードNo.054 「デート《date》」
「……んぅ」
「なあ、ホムラ」
須臾とホムラは、今微妙な距離感を保ったまま、商店街に向かっている。
ここは学園から一番近い場所だ。ヴァルキャリウスと須臾がつきあい始めたとき、初めて行った場所と同じ場所である。
「これって、デートなのか?」
「デート、でいいの? 会長」
須臾の質問に、ホムラは聞き返す。
それは、「デートと称したらヴァルキャリウス・アキュムレートが怒るか怒らないか」という疑問からくるのだろう。
「いいんじゃないか?」
「ふぇぇ」
あ、しまったと再度自分を取り戻そうとするホムラだが。
もはや、須臾はそんなことを気にしてはいない。
ただ単に「この娘かわいいな」としか思っていないのだ。
「なんだか、複雑な気分」
「なにが?」
「何でもない」
と、ここで須臾はホムラ・フラッシュオーバーの手を引いて進み始める。
もちろん、彼女はあわてた。
それはもう、慌てに慌てまくった。
「にゃわわ!?」
「どうしたんだよ」
「……にゃんともないにゃ?」
パニックの起こしすぎで壊れたホムラ。
しかし、須臾はそんなことには気を向けず今からどうしようかと考えていた。
須臾は女性関係においては幸運な男である。
今までリース、ヴァルときてそしてホムラ。
どれもが、百人中百人は「美少女」と称するような容姿の持ち主であり、その三人すべてが須臾に好意を持っているのだ。
友人は少ない須臾であるが。
圧倒的に友人は少ないのだが。
「ホムラと出会えてよかった」
「んぅ?」
「いや、なんでもない」
須臾は、首を振ると歩き出した。
目的地は、もう少しである。
「先に何か、食べてから回るか? それとも回ってから食べる?」
「んー」
と、ホムラは考えようとした瞬間腹を鳴らしてしまう。
はぅ、とおなかを抑えるホムラを、須臾はほほえましそうに見つめて「飯にするか」と笑った。
「何か食べたいものはあるか?」
「……ううん、何でもいいよ」
ホムラはかなり緊張していた。
どうしても、学園外で二人だけとなると「委員会会長とその補佐」という立場でいられないからだ。
須臾は、そもそもホムラを最初からファーストネームで呼んでいるため変わらなかったが。
「ホムラ」
「は、はいっ!」
……かしこまらなくても、と須臾はホムラの頭をぽんぽんして、彼女の手を引く。
それに対してホムラは。
「期待、してもいいの?」
「何を?」
「……その、私があなたに、好意をもたれてるって」
実際はその逆だろう須臾は思ったが、口には出さない。
代わりに、思わせぶりな言葉を残すことに。
「どうだろうな、期待するのはそっちの勝手で、それを実行するも市内も俺の勝手だが。……少なくとも、ふつうの人だったら二人でここまでこないんじゃないか?」
「ふぇ?」
まともな返事すら出来なくなったホムラに、須臾はため息をつく。
こうなったのはいったい誰のせいだ、と考えて自分だと気づいて、再度ため息。
「さて、どこに行くか……」
「……ファーストフードで」
「了解、じゃあいくか」
そういって須臾は歩き出した。
向かう先は、すぐ横。




