醒装コードNo.052 「姉妹《sisters》」
週末の放課後。
ヴァルは、須臾との訓練を断って、用事があると病院に向かっていた。
向かった先は、勿論と言うべきかリースの部屋である。
「……失礼します」
「あ、来たんだ」
リースは、薄目でヴァルの姿を認識しつつ、そっと起きあがる。
須臾と同じ学園で暮らしたい、そんな願望のみでリハビリを耐え抜き、今では全快まで後少しとなっていた。
「……そっちから呼び出したのに、その言葉はないでしょう、姉さん」
ヴァルは、極々小さい声でそういい、彼女の隣に座る。
そんな彼女を見てリースはほほえみ、慈悲たっぷりの天使のような顔を向けた。
ヴァルはというと、覚悟を決めたような顔でリースをみつつ、彼女に手を伸ばすようにして腕を横に移動する。
リースは、そんな彼女の手を握った。
「何年ぶりだろ、12年?」
「11年ですよ」
もうずいぶんたつんだね、とリース。
その顔はどこか懐かしげで、つられてヴァルも過去を思い出すように天井を見上げる。
「そっちの生活はどうかな」
「お姉さん。……そんなことよりも、ここに呼び出した意味を教えてください」
かたいなぁ、とリースは苦笑いして顔をまじめなものに変えた。
「私、来週から学園に編入することになったの」
「はい」
「1年勉強しなかったから、ヴァルと同じだけどね、どうする?」
どうするって、とヴァルは困惑したようにその言葉を繰り返す。
「須臾くんとか、その他いっぱい」
「……私は、今の須臾さんとの関係を崩したくありません」
ヴァルは、姉が何を言おうとしているのかそれを明確にする前に、須臾との関係を守ろうとした。
入学して、新人戦の終わり。
ヴァルキャリウス・アキュムレートと篠竹須臾は誓い合ったのだ。
『ヴァルは須臾の楯に、須臾はヴァルの剣に』なると。
リースは、それは分かっているという風に首を振って、「でも」と言葉を続ける。
「でも、須臾くんがヴァルだけで満足すると思う?」
「……そのことについては、すでに承知しております」
先日、愛漸キリに問いかけられたのはこれだ。
ヴァルはすぐに思い出し、理解した上で反論する。
篠竹須臾は器の大きい人だ。だからこそヴァルだけでなくホムラ・フラッシュオーバーも教育生にして見せたし、今は醒装委員会会長として彼の株をどんどんあげて行っている。
それでも、須臾はヴァルのそばから離れる素振りは見せない。
だからこそ、ヴァルはこの関係を崩したくなかったのだ。
たとえ、ホムラと須臾が一緒に一晩寝ていたとしても。
「分かってるんだ。……じゃあ、私とヴァルの関係は教えないほうがいい、ね」
リースは悲しそうな、それでいて少しうれしそうな顔をする。
自分と須臾の関係による不安と、妹の幸せを同時に考えてしまったのだ。
「でも、私は……須臾くんの『教育生』には、なれないのかな」
「……それは、須臾さん次第です」
さすがに3人目は須臾の負担が大きすぎる。
ヴァルはそんなことを考えながらも、自分では決められないことのため流す。
「……こういうとき、自分を主張しないんだ」
「しなくたって、須臾さんは分かってますよ」
ヴァルの確信はどこからくるのか。
リースはさっぱり分からなかったが、だからといって何をできるというのもない。
「……じゃあ、お話は終わりだね」
「ですね」
「また来週、ね?」
「はい」
ヴァルが病室を出て、リースはまた1人になる。
しかし、その顔はどこか。
未来に希望を持っているようだった。




