醒装コードNo.051 「適正《properrightappropriate》」
「須臾最近の調子はどうかな?」
「来週にまた決闘」
数日後。食堂でキリは須臾に質問をしていた。
質問の意図は2つ。一つは心配によるものと様子見である。
須臾はというと、アンクやヴァル、ホムラとの食事をしながらも書類から目を離さない。
談笑しているというのにもかかわらず、だ。
「須臾って、結婚したら仕事を第一に考えそうな性格だよね」
「……どうだか」
そこで、須臾が一瞬ヴァルを見つめる。
それを、ヴァルキャリウスは見逃さない。
須臾は、ぽっと顔を赤くしたヴァルを見て眩しそうに目を細め、「いや、ちゃんと家庭も大切にする」とキリに言い返す。
「へぇ、……まあ、ヴァルちゃんは家族がもう容認してるんだっけ?」
「はいっ」
キリに話を振られ、少々戸惑ったものの笑顔でヴァルは返事をした。
新人戦のあとのことを思い出しているのだろうか、顔がさらに赤く、恍惚的な表情になっている。
「えっ」
ショックを受けたような顔をしているのはホムラだ。
この数日間、ホムラ異例中の異例として須臾の教育生となり、須臾とそしてヴァルと一緒に訓練をしていたのだが。
ホムラは、須臾とヴァルの関係を「恋人同士」としかしらない。
「ん? どうしたホムラ?」
須臾は彼女が何に対してショックを受けたのかわからず、首をかしげていたが。
ヴァルは、ちょっとだけ勝ち誇ったようんあ顔をした。
「うぅ、なんてこと……」
「……ホムラさん、ちょっといいかな」
顔色が明らか悪くなったホムラ・フラッシュオーバーにいち早く気づいたのはキリだった。
彼女に声をかけ「ちょっと失礼」と食堂から出ていく。
その様子に須臾とアンクは首をかしげ、ヴァルは彼に感心する。
「流石人望があるだけありますね」
「ん? どういうことだ?」
須臾さん、ちょっとそういう関係のことに関しては驚くほど鈍感ですよねとヴァルは微笑むよう顔をする。
須臾は、さぁどうだろうなと首をかしげて、書類を机に置いた。
「どうした?」
「……前の会長、まさかここまで何もやっていなかったとは。……月末までにはすべて終わらせたいな……」
はぁ、と息をついた須臾。
彼が今さっきまで書類を読んでいたのは、去年すべき仕事だ。
今、須臾は去年やっていなかったことをやっているのだ。
「一撃で決めるんじゃなくて、こうなることが分かっていたならもう少し一方的にいたぶるんだが」
いたぶる、の発言を受けてヴァルとアンクは、同時に新人戦の一方的過ぎる試合を思い出し、寒気がした。
須臾のあれはひどかった、と顔を見合わせ首を振る二人に、須臾は不思議そうな目線を向けるが結局二人がなぜふるえているのか、理解できていなかった。
「……結構傷ついちゃったみたいな顔してるね、ホムラさん」
キリは、ホムラを食堂わきの廊下に連れ出して、振り向きながらそういった。
ホムラは、その問いには答えず目を擦る。
「泣いてる? なんで泣いてるの?」
「……分かるでしょ。……やっぱり、私はむりなんじゃないかって」
諦める必要なんてないけどなぁ、とキリはいかにも残念そうな顔で天井を仰ぐように見た。
ホムラはその意味が解らず、「どういういみ?」と彼に訊く。
「だって、今度新しく設立される法律があるじゃん」
「あの婚姻法、会長が使うと思う?」
「須臾は使わないといけない人だからね」
キリがいう、新しい法律の名前を、通称「醒適婚法」という。
もちろん、正しくは「醒装適性婚姻法」。
一言で説明するなら、「醒装などのデータにより結婚可能な人数が増える」というものだ。
「百年だよ、地球人とエヴァロンが交流を始めて。……世界はこの法律で大きく変わるんだ」
キリのその顔は、子供のような無邪気さを持っていながらもどこか怖くて。
ホムラは、何も言えずにこくこくと頷くことしかできなかった。




