醒装コードNo.050 「違和感《uncomfortable》」
「……」
須臾が目を開けると、外はまだ暗かった。
時刻にして午前4時。
彼は、隣で安らかな寝息を立てている少女、ヴァルキャリウス・アキュムレートを見つめてそっと息を吐く。
「本当に、リースに似てる」
その当の本人であるリース・エスペランサが目覚めたからと言って。
須臾は、ヴァルを捨てたりなどはしないのだが。
「だからこそ、同じくらいいとしいんだがな」
歯の浮くようなセリフを一切の同様なく言える須臾。
その鋭い目に、月の明かりのような涼しげでしかし優しい光を蓄えながら、彼はヴァルキャリウスを左手で撫でつつ、彼女を覗き込む。
長い睫に、糸のように細く閉じられた目。
月明りのわずかな光からでも判別できるほどの白いからだ。
今なら抵抗なしで襲える状況にあるが、須臾はあくまでも常識人である。
決してそんなことはしない。
「ちったぁ自分を抑えないと」
変に深入りしたら、戻れなくなる。
須臾は、そんなことを思いつつも彼女に手を伸ばしていた。
そっと彼女の顔に触れる。
「んっ」
ヴァルが起きても、須臾は手を止めない。
彼女を離さない。
「しゅゆ、さん」
「おはよう」
「ふぁぁ……」
少女は、少年に頭をなでられたことに対して気分をよくしたのか、寝ぼけながらも微笑む。
彼に寄り添うように、そっと肩を寄せる。
「こうやってると、本当の恋人みたいですね」
「まて、最初から本当の恋人なんだが……」
須臾は、寝ぼけているのかどうなのか微妙なヴァルキャリウスを、訝しげに見つめる。
「一回は私を振ったのにね、なんで今回はそちらからきたの?」
「……?」
須臾は、いつもと違うヴァルの状態を見てついに疑問を持ち始めた。
彼以外の人と、喋っているような。
そんな、言葉にできないような違和感に苛まされる。
「須臾さん、もしかして覚えてない?」
しかし、ヴァルの意識ははっきりしていた。
少々寝ぼけているのかもしれないが、それでも彼女は須臾を須臾だと分かっていた。
「もしかして、俺の中に欠落している記憶が、ある?」
須臾は何も言うことができない。
何も。
「なんだか、須臾、くん、には」
朝日の差し込む病室で。
リーセリンシュレイア・エスペランサはぼそりと呟いた。
「悪いこと、しちゃったな」
リースは、自分によく似た少女、ヴァルの顔と。
須臾の幸せそうな顔を思い出して、泣きそうになる。
「……言えないよ。……私からは、いえない」
胸からこみあげてくるものを彼女は、そっと呑み込む。
呑み込もうとして失敗し、わずかに嗚咽が零れる。
「……私とヴァルキャリウスが、姉妹だなんて言えないよ……」




