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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅲ 『冥王』と呼ばれた醒装使いと3人の【王】-three kings and Hades-
50/69

醒装コードNo.050 「違和感《uncomfortable》」

「……」


 須臾が目を開けると、外はまだ暗かった。

 時刻にして午前4時。

 彼は、隣で安らかな寝息を立てている少女、ヴァルキャリウス・アキュムレートを見つめてそっと息を吐く。


「本当に、リースに似てる」


 その当の本人であるリース・エスペランサが目覚めたからと言って。

 須臾は、ヴァルを捨てたりなどはしないのだが。


「だからこそ、同じくらいいとしいんだがな」


 歯の浮くようなセリフを一切の同様なく言える須臾。

 その鋭い目に、月の明かりのような涼しげでしかし優しい光を蓄えながら、彼はヴァルキャリウスを左手で撫でつつ、彼女を覗き込む。


 長い睫に、糸のように細く閉じられた目。

 月明りのわずかな光からでも判別できるほどの白いからだ。


 今なら抵抗なしで襲える状況にあるが、須臾はあくまでも常識人である。

 決してそんなことはしない。


「ちったぁ自分を抑えないと」


 変に深入りしたら、戻れなくなる。

 須臾は、そんなことを思いつつも彼女に手を伸ばしていた。


 そっと彼女の顔に触れる。


「んっ」


 ヴァルが起きても、須臾は手を止めない。

 彼女を離さない。


「しゅゆ、さん」

「おはよう」

「ふぁぁ……」


 少女は、少年に頭をなでられたことに対して気分をよくしたのか、寝ぼけながらも微笑む。

 彼に寄り添うように、そっと肩を寄せる。


「こうやってると、本当の恋人みたいですね」

「まて、最初から本当の恋人なんだが……」


 須臾は、寝ぼけているのかどうなのか微妙なヴァルキャリウスを、訝しげに見つめる。


「一回は私を振ったのにね、なんで今回はそちらからきたの?」

「……?」


 須臾は、いつもと違うヴァルの状態を見てついに疑問を持ち始めた。

 彼以外の人と、喋っているような。

 そんな、言葉にできないような違和感に苛まされる。


「須臾さん、もしかして覚えてない?」


 しかし、ヴァルの意識ははっきりしていた。

 少々寝ぼけているのかもしれないが、それでも彼女は須臾を須臾だと分かっていた。


「もしかして、俺の中に欠落している記憶が、ある?」


 須臾は何も言うことができない。




 何も。










「なんだか、須臾、くん、には」


 朝日の差し込む病室で。

 リーセリンシュレイア・エスペランサはぼそりと呟いた。


「悪いこと、しちゃったな」


 リースは、自分によく似た少女、ヴァルの顔と。

 須臾の幸せそうな顔を思い出して、泣きそうになる。


「……言えないよ。……私からは、いえない」


 胸からこみあげてくるものを彼女は、そっと呑み込む。

 呑み込もうとして失敗し、わずかに嗚咽が零れる。






「……私とヴァルキャリウスが、姉妹だなんて言えないよ……」



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