醒装コードNo.005 「少年、少女に申請書を突き付けられる」
3人称視点が難しい。
どうしても文章が単調になっているような気がして不安になります。
最後まで読んでいただければ光栄です。
ヴァルキャリウスは放課後、学園の門の前で立っていた。
刺すような日差しが眩しい。今日も相変わらずここは快晴ですね、と一人で笑いながら彼女は学園の中を覗き込むようにして人を待つ。
寧ろ、ヴァルは教室の外で待つのか校門で待つのか、これでも十数分は悩んでいたのだ。
エヴァロンは基本的に容姿が整っているのだが、ヴァルはその中でも一段とびぬけている。
精霊を想像させる美貌は老若関係なく、男の視線をとらえて離さない。
しかし本人はどこ吹く風状態であった。
「……ヴァル、ここで待つのは如何なものか」
きた、とヴァルは思わず顔を緩ませるが、頬を叩いて無理やり元の顔に戻す。
そして、人の海を割って向かってくる須臾を見つけた。
「だって、直接教室に行くわけにもいきませんし。私、今日入学したばかりなんですよ?」
柔らかな微笑みを浮かべるヴァルに対し、須臾はため息をついて周りを見回した。
途端、ヴァルに注目していた男たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
須臾はもう一度ため息をついた。
「はぁ」
「ため息は地球人にとって、健康に良くないと聞きます」
「エヴァロンは問題ないのか?」
「気持ちの問題ですから」
その返答に、須臾は笑みを浮かべた。
……見事に失敗して、人を殺すような顔つきになってしまっているが。
「ひぅ。笑おうとしているのはわかってますから、無理しなくていいですよ?」
「自然に笑いたいのだがな。……それよりも、さっき言っていたことだ。詳細を頼む」
単刀直入に言った須臾。彼に対し「歩きながら話しましょうか」とヴァルは返して勝手に前を歩き出す。
須臾は苦笑いを浮かべ、美しい容姿をした少女についていく。
「私は、【剣装】が使えないのです」
「なぜ?」
須臾は、彼女に問いかける。
自分のいえたことではないが、一般的に両方使えるのが常識である。
すでに周りには、子ひとりすらいない。
友人以外、須臾と話をしようとする人は今までいなかったのだ。
今目の前にいる、ヴァルを除いては。
「さっきのあの言葉は、そういう意味なのか?」
「はい」
須臾は、【楯装】を使わない生徒だった。それはヴァルがいうような「使えない」ではなく、単純に防御の手段を学ぼうとしなかったのだ。
攻撃以外のことは考えないが、充分すぎるほど攪乱には向いている。さらに力も強く敏捷力もある。故に、須臾は戦闘においては超攻撃型の人間として扱いを受けている。
しかも、その戦闘力は並大抵のエヴァロンをも凌ぐ物であった。
「聞き入れていただけないでしょうか?」
ヴァルの灰色の目に見つめられ、須臾は言葉に詰まった。
彼の懸念していることは能力の不足ではなく、自分と関わったことによる彼女の風評被害である。入学したての少女が、自分との繋がりのせいで白い目で見られるのは、なれてしまった須臾自身にとっても心を痛めてしまうようなことである。
「……でも」
「先輩が何を考えているのかくらいは分かっています。大丈夫ですよ、私も【剣装】が使えないことですぐに……劣等生扱いされるのは目に見えていましたから」
「つまり、二人で一つの役割をこなすとともに、より所を探そうと?」
須臾の正確過ぎる指摘にも、ヴァルは怯まない。むしろ、ふふっと微笑んで頷いて見せた。
「私は戦うことが不得手ですから。……私の剣になっていただけないでしょうか?」
須臾は、頷いた。その目には、すでに迷いは吹き飛んでいた。
「おう」
「では、こちらをよろしくお願いいたします」
差し出された紙を見て、須臾は思わずのけぞった。
何ともいえない、ふつうの申請書のような雰囲気ではある。しかし、その書類の名前は『醒装教育申請書』。
下級生が上級生に、醒装の訓練をより早い段階で行わせるため設けられている制度、『醒装師範教育』の申請書である。
この申請書の手続きは簡単であり、申請書に双方同意した上で必要事項を書き込み下級側が担任に手渡し、上級生が確認を取られるだけで終了する。
しかし、その簡単な手続きにそぐわないほど、その書類一枚の力というものは影響力のある書類なのだ。申請ができ次第、申請したペアは多くの権利を得ることになる。
「……最初から、これが目的か」
「そうですね。しかしこれは通過点でしかありませんが」
須臾は本日何度目かわからないため息をつくと、しぶしぶといったような顔でサインをする。ヴァルはそれを確認すると、満足したように微笑んで書類を折り畳む。
そして上を向いた。
「……眩しいです、何とかしてください」
「自己中心的過ぎるわ!」
「で、なんでついてくるんだ」
須臾は、寮に向かってもしつこくついてくるヴァルに、須臾は問いかける。
ヴァルはさほど気にしていないように振り返り、頭をかしげて見せた。
「私は須臾先輩の教育生ですから」
「……まだ決まってないっての」
理不尽だ、と思いつつ須臾は足を進める。そしてヴァルは堅実にそれについてくる。
逃げるようにして早足で寮に向かう須臾。しかしヴァルは必死に追いすがってくる。
「おい、いい加減にしろ」
「いやです。だって須臾先輩は約束しましたよね?」
「関係ないわい。ほら、自分の下宿先もしくは自宅に戻れ。さっさと帰れ」
「私もこちらですから」
え? と思わず振り返ってしまう須臾。ヴァルはしてやったり、といったような顔で笑っている。
「お、おう。」
須臾はまさかそんな偶然はないだろう、と思いつつ自分の寮へ向かう。
もう、振り返ることなかった。
ありがとうございました。
明日も更新しますね。