醒装コードNo.049 「接吻《kiss》」
糖尿病だけにはご注意を。
「あの、今日、いいですか?」
今、須臾はかなり気まずい状態でヴァルキャリウスを見つめていた。
理由は簡単、彼女が「不安になった」と須臾の部屋へ駆け込んできたからである。
このとき、須臾の心境は。
彼女から誘ってきたという喜びでも、その口から放たれた鼓膜、いや脳さえも蕩けてなくなってしまいそうになるような劣情でもない。
「……先日、ホムラと寝てるのがばれたかな」
という焦りだった。
が、それも杞憂に終わりそういうことは気づかれていないと須臾は断定した。
「……むぅ、ここまで近いのですから、手を出すのが普通だと思うのですが、何故だしてくれないんでしょう」
ほぼ自然に、ぽろっと出た言葉。
しかし、それは彼女の本音だった。
須臾に性欲はないわけではない。
抱き枕とはいえ、傍から見れば一級品以上の美少女を抱きしめながら寝れるというのは並大抵の男ではできないだろう。
それをやってのけるのだ、彼は。
いともたやすく。
「むむぅ」
「……」
「んちゅ……んぁ……」
二人の唇が重なる。
二人の、身体も重なる。
お互いを、お互いの体温を確かめ合うように。
お互いの、感触を確かめるために。
「……しゅゆ、さん……んちゅ」
ヴァルは、自分の頭の隣で須臾の手と自分の手を絡み合わせながら、彼の名前を呼ぶ。
今まで不安だったのだ。
ホムラ・フラッシュオーバーという人が現れて。
そして、今回はリース・エスペランサだ。
リースとの容姿が似ているのもあってか、自分は彼女の替え玉としていたのではないかと。
勿論、それは杞憂だ。
須臾は、そんなことで人を選んだりしないだろう。
確かに、リース・エスペランサとヴァルキャリウス・アキュムレートが似ているというのは間違っていないが。
須臾は、きちんと二人を違う存在だと認識できている。
だからこそ、あのとき。
「んぁっ……ふぁ……」
唇は二人の間をつなげるだけではなく、すでに下は絡み合い始めていた。
二人に火がついたようだ。
接吻行為も、だんだんと激しいものになっていく。
ねっとりと絡みつくように。
一歩でも踏み違えば、行為に至ってしまいそうなそんな状態でも、二人はその領域には達しない。
須臾も、ヴァルも。自分がそれを望んでいながらもそれに及ばないように調整しているのだ。
できるだけ、この行為で相手を満足させるように。
「……やっぱり、無理です」
「だろうな」
須臾の肩をぽんぽん、と叩いてヴァルは。
潤んだ声で、ぼそりと呟く。
須臾はなんとなさげに彼女の唇を離すと、腕は絡めあったまま倒れるように彼女の隣へ。
勿論、両手は絡めあったままのため、向かい合うような体勢でだ。
「須臾さん、こういうことは、なれているのですか?」
キスによる反動か、肩で息をする少女、ヴァル。
須臾は、彼女の頭をなでつけながら彼女の身体を観察している。
「うん」
「どうしたのです?」
「……ヴァルと付き合えてよかった」
須臾は、それだけを告げると。
彼女を、抱き枕のように抱きしめて目を閉じる。
ホムラにしていたようなものではなく、完全に彼女を包んでいる。
ヴァルは、甘えたような動作で彼女を包み込む須臾をみて、ニコニコしていた。
「すこしでも、私が須臾さんの」
「ん?」
「……よりどころになっていれば、幸いです」
最後の言葉は、果たして須臾に聞こえていただろうか。
もうすでに、須臾は眠りについていたのだから。
「……おやすみなさい、須臾、さん」
こういう話は、これからも増やしたほうがいいのでしょうか?
ご感想を特にお待ちしております!




