醒装コードNo.047 「守護者《guardian》」
「なんていうか、須臾さんってロリコンなんですか?」
須臾は、ヴァルキャリウスから発せられるその言葉に、少々心を痛めてしまう。
勿論、ヴァルからも疑問を口にしただけであり特に悪意があっていったわけではないだろう。
が、やはり好きな人から「ロリコンなんですか?」などと聞かれたら……。
「ろ、ロリコン? ……うーむ、それは少し違う気がするな」
「んぅ?」
「俺は【護りたくなる】ような気持ちになれる人を好むのだとおもう」
ふむふむ、そうなんですねとヴァルは微妙な顔をしながらもうなずく。
その心情はどうなのか、須臾は分かっているようでわかっていない。
少しは嬉しいんだろうが、やはりヴァルの気持ちは微妙だろう。
「……須臾さんは、リースさんのことが好きなんです?」
「ああ」
即答である。
そのことに、ヴァルはちょっと不安になると同時に安心したような顔を見せた。
それが幼馴染としてという意味ではなく一人の女性としてリースのことが好きでも、ヴァルは同じ笑みを見せただろう。
「特にリースは、俺のせいでああなってるからな」
「……そういえば、そんなことを言ってましたっけ」
ヴァルは、そっと彼の顔を窺うようにして右上を向く。
須臾の表情は、変わらない。
「護るって、そんな簡単に、いえるんですね」
「正直、言いたくはあまりないのだがこの学園の生徒では一番強いはずだ。……でも、この学園を飛び出したら、もっと強い人はいるだろう」
この世界の学園全部を叩き潰しても、次は大人が壁となる。
須臾は、それをしっているからこそ。
もっと強くなりたいのだ。
「具体的な強さは?」
「……総合的な強さを求めているのだが……」
「はぁ。……ふぅ」
ホムラ・フラッシュオーバーはため息を吐きながら、ベッドの上に横たわっていた。
本日の朝、様変わりしていた須臾の顔を思い出しては枕を抱きしめて悶えている。
勿論、彼女の目が恋愛補正を行っているだけである。
「うーん」
乙女のように顔を赤らめ、乙女のようにもじもじと悶えつつ、頭の中は須臾のことばかり考えている。
誰もが見たら、彼女を「末期」と思うだろう。
数週間前にこんなことをしていたら「冥王に取り込まれた」とか思われていたのかもしれない。
時期が幸いしたのか、そんな声は聞かなかったが。
「私、変かなぁ」
誰に訊くでもなく、少女ホムラはこっそり呟いた。
人に恋慕の思いを寄せるのは全くおかしくないことだが、彼女の今の状態はどう見てもおかしいだろう。
そろそろ、異常をきたしそうで怖い。
まあ、問題はあの日抱き枕にした須臾のせいなのだが。
「……須臾くん、……はぅぅ。会長と明日からどうしよう」
どうもせずに、普通に業務をこなして訓練を受けたらいいことくらいは分かっている。
が、どうしても意識してしまうのだろう。
「……ヴァルキャリウスちゃんに訊いてみるのもいいけど……」
ホムラの意識は、一時的に須臾からヴァルの方へと移動した。
長い髪の毛。きめ細やかな白い肌。
明眸と称すればいいのか、清く透き通った瞳。
彼女は、とにかく美しいのだ。
地球人から見て異世界人である『エヴァロン』達は、総じて平均的に地球人よりも美しさの平均値が高い。
しかし、同じ『エヴァロン』のホムラからみても、見惚れてしまうほどのものだ。
ホムラも、地球人から見たら充分に「美少女」なのだが。
彼女自身、ヴァルキャリウス・アキュムレートには勝てないと思っているあたりからもう勝てる見込みはない。
「また、抱きしめてくれないのかなぁ」
いつもの気性の激しさはどこへやら。
キリに対するアステリア・レイライトのように、心酔してしまっているホムラであった。




