醒装コードNo.046 「対面《an interview》」
そして現在、須臾はどこにいるかというと。
いつも通り寮から『走って』、リースのいる病室に来ていた。
キリはすでに帰宅しており、そこにいるのはリースのみ。
しかし、彼女は須臾の顔を認識するなり、まるで可憐な百合が咲き誇るような笑顔を彼に見せた。
「しゅゆくん。来てくれ、たぁ」
甘えるように声を紡ぎ、少女は須臾が隣の椅子に座るのを、燦々(さんさん)と照らす太陽のようににこにこと見つめている。
「リハビリの調子は?」
「けっこう、いいよ」
ふふ、来週には……と須臾に朗報を届けるリース。
来週からリースが、学年は一つ違うとはいえ、同じ学園に通えると聞いて須臾はそれこそとびあがるほど嬉しがった。
しかし、少女は一瞬だけ顔を曇らせる。
「しゅゆくん」
「ん?」
「キリ、くんから聞いたんだけど……」
ほかの人と付き合ったの? という意味のことを苦しそうに発するリース。
対してそういうことを言われた当の本人、須臾は申し訳ない気持ちになりながらも、頷く。
「……冗談、とかじゃ、なかったんだ」
「ああ、冗談じゃない」
須臾は付き合っているという状態というより、「護るべき対象」にヴァルを放り込んだ程度にしか考えていなかったが。
「その人、ここにつれて、これたりとか、しないかな?」
「一応」
そんなこともあろうかと、須臾はわざわざ病室前にヴァルキャリウスを待機させていた。
なんというか、やり手というか。
色々と予測の上手い人物である。
「うっ」
「……あぅ」
病室にヴァルが入って、彼女がリースを見たとき。
二人とも、同時にため息をついてほっとしたような顔をした。
「……ええと、ヴァルキャリウス・アキュムレートです」
「リース・エスペランサ」
互いに自己紹介をしあって、2人は何をしたかというと、須臾を同時に見る。
「……なんていうか」
「思った以上にそっくりでしたよ、本当に驚きました」
そう、リースもヴァルも容姿的には少々違うものの共通点が多かったのである。
まず、その背丈だ。
どちらも年相応の女子としては平均の少ししたといったところだろうか。
髪の毛は色こそ違えど、二人とも長髪でどちらも煌めいている。
その他パーツも、細かい差異はあるものの色々と似ている。
いや、似通いすぎているのだ。
「ん? 何か問題でも?」
そう思えば、ホムラさんも胸の大きさは違えど同じくらいの背丈だったな、とヴァルは思い出し。
二人同時に、まるで以心伝心でもしたのかとほかの人が思い違いをするほどのシンクロ率ではぁとため息をついた。
「なんだか、一気に脱力しちゃいました」
「……ふふ、双子、みたい」
はぅぅ、と息を吐くヴァルの頭を、手を伸ばしたリースがそっと撫でる。
そして、ヴァルはというと、この人が……とリースの顔を見ながらも、笑顔は決して消さない。
「来週から、退院できるんだっけか?」
「うん。……えっと、ヴァルキャリウス、ちゃん?」
「ヴァルでいいです」
ごめんね、とリースは弱弱しく笑う。
その理由も、ヴァルは須臾から聞いていたから、何も言わなかったが。
「ヴァルちゃん、らいしゅうから、同じクラスになるけど、よろしく、ね?」
「えっ」
これはさすがに予期していないのか、ヴァルは魔の抜けた変な声を出してしまう。
「1年間、植物状態で、だったし」
「あ、はいです」
「ごめんね」
何がごめんねなのか、ヴァルにはいまいち分かっていなかったようだがこれもリースなりの配慮である。
「さて、帰るか」
「んぅ?」
少々困惑気味のヴァルを、須臾は引きずりながらリースに話しかける。
「じゃ、お邪魔しました」
「んぅ、いいけど。……また、ね」
困惑したような顔をするリース。
訳が分からず、目をぱちくりさせるヴァル。
そんな彼女たちを無視して、須臾は病室から退散した。




