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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅲ 『冥王』と呼ばれた醒装使いと3人の【王】-three kings and Hades-
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醒装コードNo.042 「誘い《invitation》」

「くそっ……くそっ」


 イェリザは、そうやって何度も悪態をつきながら帰り道を歩いていた。

 謹慎処分などはウケなかったものの、厳重注意だ。

 しかも、今回のことでまた醒装委員会の評価が上がっている。


 それが自分のおかげだというのが、一番悔しい。

 確かに、イェリザは自分が醒装委員会の会長になっても、決して仕事をするひとではなかった。ほぼ放任主義であり、最初は訳も分からずおろおろしていたというのもあったかもしれない。


「なんで俺が、なんで俺が」


 しかし、そこは悪くなかった。イェリザは強かったし、何かあったら駆けつける、そして取り押さえることくらいはできた。

 何がいけなかったのか、それは彼があろうことか愛漸キリという存在に喧嘩を売ったからだ。


 人を小ばかにしたような爽やかさ。女子からの人気。その他諸々。

 自分にはなく、相手にあるものが嫌だった。

 そして、自分の方が優れているということを証明しようとしてケンカを売り、結果として負けた。


 そして醒装委員会の人には白い目で見られつづけ、【地王】はその視線に耐えきれなくなって逃げるように消えていった。


「すべて、【聖王】のせいだ」


 それでも自分が悪いと反省できていない。そこがイェリザの致命的な欠点だった。

 しかし自分勝手すぎる彼は、勿論気づかない。


 自分を辱めた【聖王】、そして自分の後任になって評判が上がりつつある【冥王】が、許せなかった。

 それのすべてが、自分の引き起こした結果だとは気付かずに。


「明日、待っていろ、篠竹須臾」


 そして、彼はさらに墓穴を掘る。

 この学園の最強に、決闘を申し込んだのだから。


 須臾が【冥王】と呼ばれるようになった理由は、そもそもその人相の悪さというのが直接的な理由ではなく、その強さも勿論半分ほど含まれている。

 【冥】という言葉は冥界、を表すがごとく【闇】を連想させるものだ。

 【闇属性】を使っている人の中では一番の実力を持つ、という意味でも彼は有名なのである。


「った! はぁ?」


 と、イェリザは誰かの身体とぶつかってしまう。

 相手は、派手な格好をした人相の悪そうな男だ。後ろに子分なのかなんなのかわからない人々を連れている。


 男たちは、何も言わないイェリザを怖気づいていると勘違いしてにへらと笑っている。

 実際は、自分からあたったにもかかわらず謝るのを彼が待っているだけだとはつゆほども知らずに。


「……俺は」

「何かいったかぁ?」

「俺は【地王】だ」


 は? と首をかしげる男たち。

 彼らは勿論アポリュト学園の生徒で、【聖王】と【冥王】は知っている。

 が、もちろん何も功績を残さず、特に目立った活躍をみせていないイェリダのことを、知っている人は少ない。

「誰だこの人」

「【王】とか……痛い」


 その言葉も当然のような気がするが、仕方がないだろう。

 

 しかしイェリザはそこをごり押しによって、【武力】で解決することを選んだ。










「正直、今回のことってやる必要があるのか? まあ、承諾しちゃったからやるんだが」

「正直、不毛」

「それはどうでもいいんだが、なんで俺の部屋にいるんだホムラ」


 須臾の自室。今、ヴァルはいない。


「鍵が開いてた」

「鍵が開いてたら。無断で入ってきてもいいというのか!?」


 はぁ、と須臾はため息を吐きつつ、しかし彼女にかまわず服を着る。


 そう、須臾は今さっきまで風呂に入っていた。

 そして出てきたとき、そこにはホムラ・フラッシュオーバーがいたのだ。


 あまりにも自然な状態でいたため、普通に会話をしていたのだが、須臾が突然なぜここに彼女がいるのか疑問に思って、今に至る。


「いいんじゃない?」

「……はいはい……」


 もし全裸で風呂場から出たらいったいどうなっていたのか、と須臾は身震いをしつつそんなことを考える。

 少なくとも、恐ろしいことになっていただろう。


 この場合、悪いのがどちらかと言えば100%ホムラが不法侵入なのだが、須臾はそんなことでいちいち文句を言うほど心の狭い人でもなかった。



「ねえ、会長」

「ん?」

「今からどこか行かない?」


 今からか、と思いながら須臾は時計を見やった。

 夜の9時。

 さすがに高校生が出かける時間としては遅いくらいだ。

 須臾は首を振ると、そのままとんっとホムラの方を押してベッドに二人で倒れこんだ。


「ほあっ」


 そんな声を発しつつ、顔を真っ赤にして須臾を見つめるホムラ。

 彼女の眼は少しだけ潤んでおり、どこかせつなげな印象も見受けられる。


「会長? なにやって……」

「男の個室に入り込むなんて、そういうことなのかと思っていたが、違うのか?」


 ホムラはその手で、身体を重ねつつある須臾の身体を押そうとするが、力が上手く入らない。

 須臾は、そんな彼女を見て身体をわずかにずらし、頭と腰を抱えるようにして密着させる。





「このくらいは許せ。……な?」



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