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悠遠の醒装使い(エヴァイラー)  作者: 天御夜 釉
CODE=Ⅲ 『冥王』と呼ばれた醒装使いと3人の【王】-three kings and Hades-
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醒装コードNo.040 「世間体《Respectability》」

「どういうことなの?」


 ホムラ・フラッシュオーバーは、そういって篠竹すずたけ須臾しゅゆに詰め寄った。

 詰め寄るも何も、結局はそういうことなのである。


 上級生が下級生におそわるということ自体が、普通はおかしな話なのだ。

 さらに言えば。須臾は【冥王】と呼ばれている程度には評判が悪い。

 だからこそ、彼は何も言わない。


「いや、ホムラ、先輩だからそのくらいわかるだろ。上級生が下級生、しかも【冥王】何かに教わってどうする」

「だって、ヴァルキャリウスは教わってるじゃない、【冥王】に」


 そのあと、ヴァルキャリウス・アキュムレートが劣等生をほぼ脱しているのは目に見えてわかる。

 彼女を馬鹿にする人はいなくなった。


 ……まあ、彼女を馬鹿にしたら須臾が飛んでくるかもしれないということは理由の一つとしてちゃんとふくまれているのだろうが。


「含まれているとしても。結局はそういうことじゃない」

「そもそも、俺が二人も教育生を持ってるということだけでも、絶対に俺の評判はさらにひどくなるんだってば」


 他の生徒は、絶対に「篠竹須臾がハーレムを創り出した」と騒ぎ耐えることだろう。

 そうなると、須臾だけではなくホムラやヴァルにも危害が及ぶ可能性がある、と須臾は考えていた。


(まあ、たいていは『【冥王】がまた一人脅した』とかそういうことを言われるからいやなんだが)


 須臾は、そんなことを少し考えつつも。

 どうにかしてホムラの要望を断ろうか考えていた。


 自分の責任が増える分には問題ないが、ほかの二人に危害が及ぶのはできるだけ避けたいのである。


「いろいろと面倒なこともあるでしょう。……私はべつにかまいませんが、これ以上須臾さんに負荷がかかっても困りますし……」


 ヴァルはまっとうな話を仕掛けているが、そんなことはどうでもいいとでもいうようにホムラは首を振る。

 やっと見つけた、自分を強くしてくれるかもしれない人なのだ。


「でも、この学園でほかに『鎌装ギガ』を使える人はいないでしょう?」

「もしかして、それを教わるために?」


 まさか、それを教わるために? と須臾が愕然としながら恐る恐る聞いたが、彼女は答えなかった。

 代わりに、頭を深々と下げる。


 勿論、この行動に対して須臾だけではなくそばにいたヴァルでさえも慌てた。


「何やらかしてるんですかぁ!」

「だって、項でもしないとだめなんでしょう!?」


 ホムラの滅茶苦茶な理論に、二人ははぁとため息をつくことしかできない。

 が、タイミングがいいのか悪いのか、醒装委員が一人、会議室に駆け込んできた。

 女子だ。


「会長! 外で暴れているひと……が……」


 その声は安登になっていくにつれて少しずつ小さくなり、最後はもう途切れていた。

 そして、ドアを開けた張本人はちょっと気まずそうな顔をしながら「えっと、お邪魔しちゃいました……?」と。


 須臾は大丈夫だと首を振って、場所を訊く。


「わかった、すぐに行く」

「私も行きます」


 すぐに部屋を飛び出した須臾とヴァル。

 はわわと取り残された委員生徒と、そしてきょとんとした顔のまま棒立ちになっているホムラ。


「ええと、なんかすみません……」

「いや、いいんだけど……ちょっと相談に乗ってくれないかな?」


 あ、はぃ。と女子生徒が近づいてくるのを彼女は見ながら、消え入りそうな顔で訊く、いつもの気性の荒さが迷子状態のホムラ。

 須臾と同い年である醒装委員の女子生徒は、そんな彼女を意外に思いながらも話を聞くことにした。


「あのね」

「はい?」

「ちょっと気になったことがあって、上級生が下級生に申請するのって、駄目なのかなぁ?」

「……えっ」








「ここか」


 一方、須臾とヴァルは報告のあった場所に到着しようとしていた。

 そこには、遠目からもわかるくらいの人だかりができており、怒号が聞こえてくる。


「どうした?」


 俺は見回りの委員一人に声をかけて、事情を聴くことにした。

 見回りをするとき、醒装委員はかならず青と白の幾何学模様が入った醒装委員会を示すための腕章をつけているため、非常にわかりやすいのだ。


「それが、分からないのですけど急に片割れに醒装エヴァイルで殴りかかって」


 殴りかかる、という表現を使っているがおそらく切りかかるの間違いだろう。

 須臾は直接的にはそんなに重要ではないことを考えつつ、負傷した委員生徒の様態を確認する。


「……確かに、柄で殴り掛かっただけみたいだな」

「そうですね、斬られていたらと思うと」


 確かにそれは寒気がする。

 須臾はヴァルに、医務室の教員を呼んでくるように指示を出して駆けつけてきた醒装委員に無理やり抑え込まれている男を一目見て、ため息をついた。


 そう、相手はイェリザヴェーダ・カーミェンヌィだったのである。


「……暴れたければ、明日決闘で存分に暴れればいいものを」


 須臾はぼそりと呟くと、現在数人がかりで抑え込んでいるイェリザを一人で拘束すると、ちょうど駆けつけてきた生徒指導の先生に引き渡す。

 そんな状況を、醒装委員一同は唖然としながらただただ見つめることしかできなかった。


「ええー? 怪力過ぎませんか、会長?」

「関節決めてるのが相手もわかっていたみたいだし、俺は怪力でも何でもないぞ」


 そんな素っ気ない態度の須臾を見て、醒装委員の中で彼の株は、飛躍的に上がっていくのであった。


「さて、負傷した人も大丈夫そうだな。今日は解散にしよう。……帰っていいぞ」


 須臾は、勿論そんなことには気づかず。

 報告書を作らないとな、と会議室に帰っていくのだった。







「ねえ、篠竹須臾をどう思う?」

「どう思うって……、最初は【冥王】かーとか思っていましたけど、実際強いですし、会長としてのことも必要以上にしてますし、考えもしっかり持ってますし。正直、評価を改めるべきかなって思ってます」


「……、そう、よねぇ……」

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